円錐角膜? 治療

今日は以下の手術を行いました。
・翼状片手術 1件
・白内障手術 11件
・網膜硝子体手術(茎離断)3件
 (網膜中心静脈閉塞症、黄斑前膜、網膜中心静脈分枝閉塞症での黄斑浮腫) 
無事に終わりました。

今日の外来でも網膜中心静脈閉塞症の初診が来ましたが、結構大変な病気です。おいおいブログを書きたいと思っている病気です。

ちょっと間があきましたが、円錐角膜のブログを終わらせちゃおう。
円錐角膜 治療
今の医学では、円錐角膜であったことを全てなくしてしまう治療、完治させる方法は残念ながら、ありません。上手に付き合っていくことが治療です。

?ハードコンタクトレンズ
円錐角膜の患者様に行う治療のうち、もっとも標準的な治療です。強い乱視を和らげるために、突出した黒目(角膜)の上にハードレンズを乗せることで、目の表面(コンタクトの表面)が平坦になるようにします。
先日ハードレンズを処方した方の写真です。
初期の円錐角膜で、突出が軽度の場合にはソフトコンタクトレンズでの矯正も可能ですが、ある程度以上の突出では、やわらかいソフトレンズでは、矯正が出来ずに、硬いハードレンズが必須になります。円錐角膜の患者様のほとんどは、このハードコンタクトレンズの装用によって、通常の生活を送ることができます
あまりに突出が強くなると、ハードレンズがすぐに外れてしまうようになったり、目にあわなくて、痛みからコンタクトレンズが付けられなくなってしまう場合があります。
このような場合には、特殊なコンタクトレンズを作成したり、ソフトレンズを装用した上に、2枚重ねでハードレンズを乗せるなど、複雑なレンズの処方が必要になります。

ハードコンタクトレンズの使用は、円錐角膜の進行を遅らせる効果がある。という報告と、そのような効果はない。という報告があります。どちらかというと、近年は効果がない。という報告が主流になってきているようです。(進行予防と言うよりは、見え方を改善させるための治療です。)

?角膜移植
突出が強すぎてコンタクトレンズがのせらてない場合や、角膜が濁ってしまった症例など、重度の円錐角膜では、角膜移植を行います。薄く弱くなって突出した角膜を切除して、アイバンクなどを通して、亡くなった方から頂いた平坦な角膜に交換する手術です。
保険診療で高額医療費などの申請も可能ですが、拒絶反応が起こる場合や、手術なので合併症のリスクもありますし、現在の医学では、精度も高い手術とは言えません。安易に行う治療ではなく、コンタクトレンズが装用出来ずに、生活に不自由が起こる場合などが適応です。
(そのうち、レーシックのようにレーザー光線を使用して角膜を交換することが一般的になれば、より精度の高い手術が可能になりますし、人工角膜や、自己再生角膜などの研究も少しづつ進んでいるようです。医学の進歩が楽しみです。)

?角膜内リング
角膜の一部に、シリコンでできた透明のリングを埋め込む手術です。リングの強度(緊張・テンション)によって、突出してしまった角膜を平坦化させます。円錐角膜の進行を遅らせる効果も期待できるとされ、施行症例が増加してきている治療法です。
問題点は、現時点では保険外診療(自由診療)であり、数十万円の費用がかかることが多いこと、まだ精度が高い手術とは言えず、ある程度の乱視が残る症例も多いようです。ただし、少しでも突出を弱くすることで、ハードコンタクトレンズの装用が可能になる事もありますし、乱視が上手くコントロールできない場合など、リングをあとから除去することも可能です。

?リボフラビン
円錐角膜では、角膜に薄くて弱い部位があり、そこが突出していきます。リボフラビンとはビタミンB2の一種ですが、角膜を組織しているコラーゲンにしみこませ、紫外線をあてると、反応が起こり、角膜を硬く丈夫(架橋)にして、突出を抑える事が可能になります。
角膜の表面の膜を剥離し、リボフラビンを点眼、角膜の実質に浸透させます。その後、特定波長の紫外線を照射します。
円錐角膜の進行を抑制する治療の一種ですが、やはり保険が効きません。

円錐角膜とレーシック
よく質問を受ける事柄ですが、円錐角膜の患者様は、レーシックと呼ばれる近視や乱視をなおす屈折矯正手術は受けることができません。
レーシックは、レーザーで角膜を薄く削ることで治療を行います。円錐角膜は、角膜が薄く弱い部分が突出してきてしまう病気なので、レーシックで削ってしまうと、角膜がさらに薄くなってしまい、さらに悪い状態として再発してしまいます。
なので、レーシックを行う前には、円錐角膜ではないかを精密に調べます。実は、近視を治そうとおもって、レーシックを行う眼科に行ったら、円錐角膜を診断されてしまった。なんていうことが多々あります。

円錐角膜? 症状・経過

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・翼状片手術 1件
・眼瞼下垂症手術 4件(ミュラー筋タッキング:CO2レーザー使用)
・白内障手術 1件
無事に終わりました。

月曜日は、クリニックでの一般外来を午前、午後(夕方)と行う唯一の日ですので、外来診察の数がもっとも多い曜日です。(他の曜日は出張や、手術、特殊外来だったりするので、少し少なくなります。)
1日に80名くらいの診察をするのですが、きちんとご満足いただけてるのか、たまに不安になります。挨拶だけは絶対にサボらないようにと思っていますが、ちゃんと出来ていますでしょうか?

円錐角膜 症状・経過

角膜の突出とともに、以下のような症状が出現します。

?乱視の増加
近視性の乱視が強くなります。
ものが見にくい。かすむ。などから始まり、発症初期には通常の乱視として、眼鏡や、通常のコンタクトレンズを処方されていることが多々あります。

?さらなる乱視の増加
通常の眼鏡やコンタクトレンズでは、矯正出来ない乱視になります。
メガネをかけても視力が不良、ものが歪む、2重や3重に見える(片眼復視)などが起こります。ハードコンタクトレンズの使用によって、まずまずの視力が得られます。

?角膜にキズ、混濁、痛みが出現
あまりに、角膜の突出が大きくなると、まばたきの摩擦が大きくなったり、涙の膜がキレイに形成されずドライアイとなるなどして、角膜にキズが出来たりしやすくなります。

?ハードコンタクトレンズの装用困難
あまりに変形が強くなると、ハードコンタクトレンズが上手く装用出来ずに、取れてしまったり、痛みを感じやすくなります。また、キズや濁りが強くなり、コンタクトレンズが装用できても、満足な視力が出なくなるなどします。視力の改善のためには、角膜移植が必要になります。
非常にまれですが、超重症例では突出した部分の角膜に穴があいてしまう事もあります。

典型的なパターンでは、思春期に発症し、徐々に進行しますが、多くの場合では35才程度で進行が停止するとされています。
(稀には、40代や50代で急激に進行することがあります。)
どの程度の障害が起こるのか、どの程度のスピードで進行するのかは、個人差が非常に大きく、現在の医学では予後を見通すことはできません。
比較的早期に?⇒?⇒?⇒?と進んでしまう事もありますし、?や?の状態のまま、進行が止まってしまう事もあります。
ただし、?のような角膜移植まで必要になる症例は本当にごく一部であり、ほとんどの症例は?や?で、ハードレンズの装用により、それほど不自由のない生活を送れます。
?や?の場合では、円錐角膜と診断を受けないまま、たまたま40歳とかで眼科を受診し、発見・診断されることも多々あります。
上記の思春期発症というのは昔から言われていることですが、以前は軽微な症例は診断ができなかったので、もしも今の医学で、小学生全員に角膜トポブラファーの撮影を行ったら、もっと早期から発症している可能性もあるかもしれません。

通常の円錐角膜は、数ヶ月とか数年とかかけて変動しますが、急激に状態が変化する病態として、急性水腫(角膜水腫)というものがあります。
急性水腫(きゅうせいすいしゅ)
全員に起こるわけではありませんが、ある程度の進行例で、角膜(黒目)が薄くなり組織の一部が断裂すると、目の中を循環する房水が断裂部から角膜の組織内に入り込み、水が溜まった状態(角膜水腫)になります。
急性水腫によって角膜に水がたまると、本来透明な角膜が白く濁ってしまうので、急激に視力が下がったり、また、非常に強い痛みを感じ、救急で眼科を受診して頂くことになります。

角膜中央部のやや右下が白く濁っているのが分かりますか?中央下やや左に白くうつるのは、撮影ライトの反射です。

急性水腫を起こす時に、あまりに角膜が薄い場合には、そこから穴があいてしまったり、キズに感染を起こして、重症化することがありますが、点眼薬や眼軟膏、眼帯などで、眼科でしっかりと対応をすれば多くの場合は1?2ヶ月程度で、急性水腫は落ち着きます。
急性水腫が起こると急激な悪化として自覚されますが、きちんと対応して、落ち着かせる事が出来れば、水腫を起こした部位が硬くなり、以後の進行がストップしたり、突出した角膜が硬くなって、平坦化する場合もあり、急性水腫がおこることで、良い方向に向かう事も多々あります。

これは進行期の円錐角膜の症例で、ハードコンタクトレンズの装用が難しく、角膜移植を考えた患者様なのですが、急性水腫を起こして角膜が平坦化し、赤矢印の部位に濁りを残しましたが、逆にコンタクトレンズの装用が可能になり、非常に良好な視力に戻った症例です。

急性水腫の発症や経過を医学的にコントロール出来たらいいのでしょうが、そうはいかないのですよね・・・。

円錐角膜? 診断

今日は、夕方からは久しぶりのお休みでした。と言っても、子供たちの体調がまだ完全ではないので、出かけたりはできませんが。
昨日も緊急入院がありましたが、今日も網膜剥離の紹介があり、緊急入院に。
昨日、再手術の症例で、ちょっと心が折れそう。なんて書いていましたが、そんなことを言っている暇はないようで、バリバリ仕事しなくては。頑張るぞ!!

円錐角膜 診断
円錐角膜は、角膜に薄くて弱い部分ができて、そこを頂点に角膜が尖ってしまう事で、強い乱視が発生する疾患です。

診断
角膜が尖ってくる疾患ですが、明らかに尖っているのが分かったり、角膜に典型的な濁りや、断裂の所見があるような、進行例の症例では、普段診療に使用するスリットランプという検査だけで、簡単に診断がついてしまいます。

ただし、実際には、そこまで進行してから病院に来る症例はごく一部で、もっと軽症の状態で診断が必要になります。このようば場合にとっても便利なのが、角膜トポグラファーです。角膜(黒目)の形を精密に計測して、分かりやすいイメージ図を作成してくれます。

左は通常の乱視の症例で、縦方向よりも横方向の角膜のカーブが強いことをしめしています。メガネで簡単に矯正出来ます。
右が円錐角膜の症例です。中心部より下方にある、赤い部分が角膜が尖っていることを示します。今となっては特に目新しい機械ではなくなりましたが、角膜トポグラファーの出現により、これまで、ただ「乱視がつよいねー。」なんて言われていた症例が、円錐角膜であると診断がつくことが多くなりました。

明日も予定がいっぱいなので、今日は早くねます。
では、お読み頂き、ありがとうございました。

円錐角膜? 病態と原因

この数日は、眼科医の先生方などに食事に誘って頂くことが多く、ちょっとブログをサボってしまいました。有名な緑内障の先生と初めてご一緒させて頂き、とても勉強になりました。日々の診療で生かしていきたいなと思います。いろいろな先生と話す機会があると刺激になります。

さて、目の事を書こうかな。
昨日の外来でみた症例でも。
円錐角膜(えんすいかくまく)
病態と原因

眼球は、黒目(角膜)から光が入って、目の奥のフィルム(網膜)に光が当たると物が見える、カメラのような構造をしています。入ってきた光が、目の中で進行方向を変え(屈折)、ちょうど網膜上で像を結ぶ(ピントを合わせる)ことができれば、物が良く見えるのですが、この、光を曲げる(屈折させる)役割を担っているのが、角膜と水晶体(レンズ)になります。
近くをみたり、遠くをみたり、見る距離によって形を変えて、ピントを合わせる力を持っているのは水晶体ですが、実は、光を曲げる力(屈折力)でみると、角膜は水晶体の約2倍、光を曲げる力が強いのです。
レーシックでは、角膜を削って形を変え、屈折力を弱くすることで近視を治したりします。

角膜は本来、キレイな半球状の構造ですが、円錐角膜は角膜の先がとんがって、円錐状になってしまう疾患です。


通常の角膜(赤矢印)が、キレイに光を屈折するとすると、


円錐角膜の患者様では、角膜の先がとがって歪んでしまうため、角膜の部位によって、不規則に光が侵入し、乱視が重度にひどくなったり、物が何重にも見えてしまうようになります。

疫学
およそ千人に一人とされていますが、報告により様々です。
昔は数万人に1人。なんて言われていましたが、近年は診断機器の開発が進み、今までは「ただの乱視」と言われていたような人が、円錐角膜と診断されることが多くなったようです。眼科医の僕にとっても、「稀にみる珍しい病気」ではなく、「ちょこちょこ出会うよくある病気」という印象です。女性よりは男性に多い疾患で、思春期頃に男の子が発症。というのが一番多いケースです。

原因
実は、明確な原因はまだ分かっていません
円錐角膜が多い家系が知られていますが、原因遺伝子も特定されていませんし、そもそも遺伝ではない孤発例の方がよほど多くあります。
ダウン症候群の方や、アトピーの方に合併することがよくありますが、その原因も不明です。(アトピーでよく目を掻いているから?との推測もありますが、化学的な解明はされていません。)

何らかの原因で、角膜の中央部のやや下方を頂点に、角膜が薄く・弱くなってしまいます。眼球内には房水と言う水が循環して、眼球を内側から膨らませていますが、この薄く・弱くなった部位は、他の角膜に比べて、内側からの圧力に弱いため、その部位が突出していきます


円錐角膜に細いスジ状の光を当てて撮影した写真です。写真の中央部、縦に光る白い線が角膜ですが、キレイな弧ではなく少しいびつになっていたり、角膜の厚みが一定化していないのが分かるでしょうか?