後部硝子体剥離? 合併症のリスク

後部硝子体剥離は加齢に伴う硝子体の収縮が原因で、飛蚊症を自覚するものの、多くの場合は時間の経過ともに気にならなくなっていくことを書いてきました。

ですので、外来では「あまり心配せずに様子をみましょう。」という形になるのですが、全員が問題なく経過するわけではなくて、稀にですが後部硝子体剥離に伴って、合併症が起こることがあり注意が必要です。
通常は網膜と硝子体がキレイに分離していくのですが、網膜と硝子体の癒着が変に強かったりすると、硝子体の収縮によって網膜が引っ張られるような形になります。網膜は光を感じ取ったら、その信号を脳へと伝える役割があるのですが、
硝子体との癒着部で引っ張られた場合には誤作動を起こして、光がピカピカ見えることがあり、光視症(こうししょう)と呼ばれます。(暗いところで目をつぶって、指で目がしらを押すと、視野の外側に光が見えるのが分かりますか?これは、網膜が外側から押されて、誤作動を起こしている状態です。中から硝子体に引っ張られても同じような事が起こるのです。注:眼球が凹むほど強く押してはいけませんよ。危ないので。)
このような、網膜と硝子体の癒着部位で、網膜が硝子体に引っ張られてた時に、その部位の網膜がビリっと破けてしまうと、網膜剥離や黄斑円孔という重大な合併症が起こることがあるのです。

なので、後部硝子体剥離と思われる飛蚊症の症状を自覚した場合には、一度は眼科で精密検査を受けるようにしましょう。
後部硝子体剥離が起こった直後は問題がなくても、網膜と硝子体の剥離・分離が周辺部に進むに時期に、あとから遅れて網膜剥離が起こる場合もあり得ます。一度、眼科で問題ない。と言われても、飛蚊症がさらに増えたり、視野がかけたり。症状が悪化する場合には早急に再受診をしてください。

当院では、後部硝子体剥離の発症後に受診した患者様は、初回の診察で問題がなくても、念のため一ヶ月後に再診をお願いして、問題がないことを確認してから終了としています。(もちろん、途中で自覚症状の悪化があれば受診をしてください。また、飛蚊症を自覚して、すでに一ヶ月以上経っている場合は再診の予約は取りません。)

最後に、実際に外来で使用している説明プリントを添付して、後部硝子体剥離のブログは終了とさせていただきます。

後部硝子体剥離? 治療法と経過

今日は以下の手術を行いました。
・眼瞼下垂症(CO2レーザー:ミュラー筋タッキング)3件
・白内障手術 7件
・網膜硝子体手術(茎離断) 3件
 (黄斑前膜2件、増殖糖尿病網膜症・網膜剥離1件)
無事におわりました。

後部硝子体剥離?
先日は後部硝子体剥離の症状、飛蚊症について書いてみました。
黒い点やモヤが動いて見えるので、ビックリして来院したり、結構困った顔で来院されるかたが沢山います。
では、治療法は?というと。

治療法と経過
残念ながら、目薬や、飲み薬で有用なものはありません。もちろん、ブルーベリーもサプリメントも効きません。
どうしても治したいという場合には、手術で治せます。硝子体手術で硝子体ごと濁りを撮ってしまうのです。
後部硝子体剥離を起こした中で、どのくらいの人が手術を受けるかというと、手術ばかりの僕でも年に2名とかそれくらいです。後部硝子体剥離は加齢が原因で、ある程度の年齢になれば必ず起こります。白内障も加齢によって必ず起こる病気ですが、僕はだいたい年に1000件くらいこなします。どちらも必ず起こる現象なのに、白内障と比べると飛蚊症の手術を受ける人は500分の1という計算になります。
では、手術を受けない、あとの499名はずっと飛蚊症に苦しむのでしょうか?答えはNOです。
硝子体の濁りはなくなりませんが、だんだんと気にならなくなっていくのですマリオット盲点に気がつかなかったり、緑内障での視野欠損に気がつかなかったり、人間って都合の悪いことは認識しなくなっていく傾向があるようで、飛蚊症の濁りも出来た始めのうちは気になるものの、徐々に認識しなくなっていくようです。また、長期的には、硝子体がかなり小さくなって、後部硝子体剥離の濁りが眼球の端っこの方に移動してしまって、構造上として見えなくなってしまう場合もあります。
僕たちが数ヶ月とか1年とか経って定期検査をすると、しっかりと濁りが存在するのですが、「治ったよ!」なんていう患者さんばかりになってきます。
みなさん、いろいろな言い分があるようで、「よく寝たら治った。」「ブルーベリーを食べたら治った。」「数万円の真珠の粉を飲んだら治った。」などとおっしゃる方が沢山いるのですが、実際に眼底検査をすると必ず濁りが残っているので、お返事に困ってしまいます・・・。(本人が満足ならいいのかな?)

しばらく我慢すれば、濁りは消えなくても、ほとんどの場合で、本人が気にならなくなってしまう飛蚊症です。濁りを取るための硝子体手術は、手術自体が20分くらいかかりますし、数万円も支払って、数日入院して(希望者は日帰りでもやりますが)、100分の1位では再手術などのリスクがあって。そんな手術はあまり受けたくないですよね?
ですので、後部硝子体剥離に伴う飛蚊症では、濁りの程度が強かったり、大きかったり、濁りが視野の中心部に近くて、生活に不自由がでるほど困っていたり。そんな重症な患者様の一部が希望をされるのですが、ほとんどの人は様子をみて、気ならなくなる時期を待つことになります。

後部硝子体剥離は全員に起こるのですが、僕たち診察の所見と照らし合わせると、
・硝子体にかなり大きな濁りがあっても、「全く気にならない。」という、おおらかというか、大ざっぱな人もいます。
・逆に、とても小さな濁りしかないのに、救急車を呼んだり、心配で何度も外来を受診してしまうような、繊細というか、神経質な人もいます。
感じ方って、個人差というか、性格なんかも大きく作用するのかもしれませんね。

後部硝子体剥離? 症状・診断

今日はお休みでしたが、急患がちらほらあり。コンタクトレンズに関連した角膜潰瘍で重症の方がいて、緊急入院になりました。

後部硝子体剥離?
前回、加齢による変化として、目の中の硝子体(ゼリー)が収縮し、網膜(フィルム)と分離・剥離していくことや、目の中で、硝子体と網膜の癒着の強い場所として、?視神経乳頭、?黄斑、?周辺部網膜があることを記載しました。
このうち、飛蚊症の原因として重要なのが?視神経乳頭部の剥離です。

矢印の部分が視神経乳頭になりますが、光を感じ取った網膜が束になって、脳への橋渡しとなる入口です。この部位の網膜と硝子体が剥離することを、眼球の奥の方(後方)の硝子体が剥がれる。という意味で、後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)と呼びます。
加齢による硝子体の収縮は避けられない現象で、後部硝子体剥離ある程度の年齢になれば必ず起こります40代?70才くらいまで程に起こることが多いのですが、個人差が大きく、強度近視の方ではかなり早くに起こることもあります。

症状:飛蚊症
後部硝子体剥離が起こると、視神経乳頭で強く癒着をしていた部分の硝子体に、濁り(混濁)が出現します。

光の進路である目の中に混濁があると、網膜に影がうつります。混濁の濃さや、程度、網膜からの距離によって、灰色?黒っぽい濁りが見えたり、光の加減によっては紫などに見える人もいるようです。
濁りの形は、典型的には視神経乳頭の形に似て、丸いリング状の濁りが出現することが多いのですが、濁りの程度や、位置、向きなどによって、もやのように見えたり、糸や線状に見えることもあります。

硝子体が目の中いっぱい、パンパンに入って、癒着をしている時には、目の中で硝子体があまり動かないため、少しくらい混濁があっても気が付きにくいのですが、硝子体が加齢によって収縮して小さくなると、目の中の隙間ができるために、目の動きにつられて内部の硝子体がよく動くようになります。硝子体が動けば、混濁も動いて、網膜の影も動いて、濁りがゆらゆらと飛んでいるように自覚されます。人間は動くものには敏感に反応するように出来ているため、突然、後部硝子体剥離が起こると、ビックリして眼科を受診するかたが沢山おられます。
あたかも「虫が飛んでいるように見える。」ということから、「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれます。
視神経乳頭は、自覚的な見え方としては、視界の中心から外側に15度の場所に相当します。後部硝子体剥離が起こってしばらくの間は、硝子体の混濁もそれほど移動しないために、後部硝子体剥離の飛蚊症は、視界の外側(右目なら視野の右の方、左目なら視野の左の方)に自覚されます。

診断:眼底検査
上記のように、後部硝子体剥離の症状は特徴があるので、僕たちは、濁りの場所や見え方を問診で聞くだけで、その飛蚊症の原因が後部硝子体剥離らしいのか、悪い病気が疑われるのか、大まかには判別可能ですが、正式には点眼薬を用いて瞳孔を開いて(散瞳)、眼底検査を行う事で、濁りの原因を診断します。

後部硝子体剥離? 硝子体の収縮

午後から以下の手術を行いました。
・白内障手術 12件
・網膜硝子体手術(茎離断4件)
(内訳:黄斑円孔1件、黄斑前膜1件、糖尿病網膜症1件、網膜剥離1件)
今日は結構早く進み、17時ちょっとには無事に終えることができました。

外来をやっていると、1日に1人くらいは、飛蚊症(ひぶんしょう)といって、「何が黒いものが飛んで見える」という訴えの人がいらっしゃいます。目の中の硝子体(しょうしたい)というものが濁ってしまう事で起こる症状ですが、濁りが発生する原因は、多くの場合では病気によるものではなく、加齢によるものです。今日は飛蚊症の原因で最も頻度が多いものについて書いてみます。

後部硝子体剥離?(こうぶしょうしたいはくり)
硝子体の収縮
眼球は、光を屈折するレンズ(水晶体)と、光を感じ取るフィルム(網膜)からなり、よくカメラに例えられます。

このレンズと、網膜の間の、眼球内の最も広いスペース(緑矢印)を硝子体腔(しょうしたいくう)と呼び、中には、透明なゼリー状物質である、硝子体(しょうしたい)が入っています。
硝子体には、子供の時には眼球の形成・発達に役立ったり、ぶつけたときにクッションの役割をしたり、紫外線を吸収するなどの役割があります。

この硝子体ですが、30代の頃までは殆どの人が、上のイメージ図のように目の中いっぱい、ぎゅうぎゅうに沢山入っていますが、加齢によって硝子体は縮こまる性質があり、80代とかになると、全員が下の図の様に、眼球の前の方に向かって小さくなってしまいます。

多くの場所では網膜(フィルム)と、硝子体(ゼリー)は、軽く接着しているだけで、キレイに分離・剥離していくのですが、場所によって、フィルムとゼリーの癒着が強い場所があることが分かっています。

?赤:視神経乳頭 (⇒マリオット盲点)
?青黄斑
?黄:赤道部・周辺部の網膜

加齢によって硝子体(ぜりー)が縮こまる時に、全ての網膜と硝子体が、キレイに分離されていけば問題は起こらないのですが、上記???のような、癒着が強い場所が分離する場合には、それぞれ特徴的な現象が起こります。

とくに、?赤矢印視神経乳頭の箇所で、網膜と硝子体の分離(後部硝子体剥離)が起こると、硝子体に濁りが出現し、飛蚊症の原因として最も頻度の多いものとなります。

?や?の部分では、網膜と硝子体の癒着は、その他の部位に比べて、やや強めではありますが、通常は問題なくキレイに分離が進んでいきます。生まれつきなど、何らかの原因で網膜と硝子体の癒着が強く、硝子体が収縮するときに、網膜を引っ張ってビリっと破けてしまうようなことがあると、
?青矢印⇒黄斑円孔
?黄矢印裂孔原生網膜剥離
などの病気が起こってしまう事があります。