硝子体出血③ 予後(術後視力)

今日は午前の外来が40名ちょっと。
今週はお盆なので、外来患者様が少なく、のんびりと過ごせています。午後は、いつもは開業医様などでの出張手術なのですが、お盆でお休みの病院様が多く、なんと久しぶりのお休みです!
と言っても、県北の総合病院様の紹介で、ぶどう膜炎後の血管新生緑内障の患者様の手術をお昼休みに1件行いましたが。

さて、硝子体出血の最後です。
硝子体出血③ 予後(術後視力)
どの手術でも、術後にどのくらい回復するのか?というのを、正確に断定することはなかなか難しいのですが、
たとえば白内障の手術では、「ぴったり0.9です。」とまではいかなくても、「かなりよく見えるようになりそう。」「免許証が取れるくらい。」「少ししか良くならなさそう。」など、術前からある程度の予想をお伝えすることが可能です。
ところが、硝子体出血を起こしてから、初めて病院にいらした患者様の手術では「術後の視力は、手術をやってみないと分からない。」とお伝えすることが多くなります。
というのも、硝子体出血は、眼内(硝子体腔)が出血で濁っている状態の総称なのですが、術後の視力は、硝子体出血の元になった病気の種類や場所によって、大きく異なるからです。

例えば、硝子体出血の原因で一番多いのは、網膜中心静脈分枝閉塞症という病気なのですが、血管が詰まって、病気となった網膜の場所が、下のイラストの赤矢印の部位のように、物を見る中心部(黄斑)から離れている場合には、良好な視力が保たれますが、

青矢印の先のあたり(黄斑近く)に、出血があったり、血流障害に伴う黄斑浮腫という病態を伴っている場合には、手術でせっかく出血をキレイにしても、あまり良好な視力には回復しません。(視野全体としては明るくなりますが。)
動脈瘤の破裂なども、動脈瘤の場所によって結果が異なります。
加齢黄斑変性症は、もともと黄斑部に起こる病気なので、やはり予後が不良です。

硝子体出血の手術は、ビックリ箱のようなものです。
手術でキレイに洗ってみて、悪い病気がなければ、もともとが見えにくくなっていた分、とても喜んで頂けるので、やりがいがあります。
ただし、洗ってみて、手術中に加齢黄斑変性症が原因であったことが判明した場合には、ガッカリしてしまって、結果をどうお伝えしようか落ち込んでしまうのですよね。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

硝子体出血② 手術の時期

今日のお昼休みには以下の手術を行いました。
・白内障手術 8件
・翼状片手術 1件(遊離弁+生体糊)
・結膜下異物除去 1件
・緑内障手術(GSL) 2件
・網膜硝子体手術(茎離断)1件(裂孔原生網膜剥離+硝子体出血)
お昼休みにこなすには、多すぎて、午後の外来が遅れてしまいましたが、今日はお盆だからか、外来が少し空いていて助かりました。
白内障の1件が予想以上に難しくて、残念ながら、予定していたレンズの挿入を次回に持ち越しました。5年前からほぼ見えず、斜視まで発生している、Morgagni、水晶体振盪+という重症例ですが、僕なら通常の手術でできちゃうかな?と、準備を怠りました・・・。

余分に時間がかかってしまい申し訳なく思います。少し落ち着いてからの手術で回復して頂きます。(反対目も同時に手術ですが、こちらは明日から見えるようになるかと。)
全てが予定通りには行かないものです。手術は難しい!もっと研鑽しないと!!

硝子体出血②
手術の時期

硝子体出血を起こした場合に、多くの場合には少しの間は止血材を飲んだりして、自然に軽快することを期待しつつ、経過をみるのですが、出血が長引く場合には硝子体手術で積極的に治療を行う事を考えます。

では、どれくらい経過観察をするのか?というと、そこが難しいのです。
手術は100%安全ではないので、
硝子体出血は、眼内(硝子体腔)が出血で濁っている状態の総称で、硝子体出血を起こす病気は数えられないほどあると前回記載しました
ところが、ある程度以上の出血を起こしてしまうと、診察で目の中を詳細に観察することが困難となり、どの病気が原因で、どこから、どの範囲に出血をしているのか?が正確に把握できないのです。

もともと、眼底・網膜の病気でかかりつけの患者様が出血した場合には、診断も簡単です。ただし、多くの方は見えなくなってから初めて眼科を受診します。症状がなくても・出血がなくても、定期健診をしてくれる方は滅多にいませんので、仕方のないことですが・・・。

そうは言っても、僕たち眼科医もプロですので、既往歴や診察所見からどの病気が原因らしく、いつまで待って大丈夫か?にはとても気を使います。
・もともと目の病気がある人⇒その病気の悪化
・高齢者や高血圧の既往⇒血管が詰まる病気や動脈瘤破裂
・糖尿病のある人⇒糖尿病網膜症
・若い人⇒ぶどう膜炎や血管異常・奇形
などなど、問診や病歴から、もとの病気を推測します。
他には、目のエコー検査(超音波)なども行い、出来る限り目の状態を把握するように努めます。

基本的に手探りで、元の病気を推測する硝子体出血ですが、
問診や診察所見、エコー検査をもとに、出来るだけ正しい診断を考えるのが腕の見せ所です。(残念ながらエコー検査は、あまり精度はよくない検査です。重大な網膜剥離等を除き、確定診断には至らないことが大多数です。)

そうは言っても、だいたいの目安が欲しいですよね。実は、多くの場合では、1~2ヶ月月程度の期間で出血が晴れない場合には手術を考えることが多いようです。
硝子体出血の原因として、もっとも多いのは静脈閉塞症や糖尿病などの血管が詰まる病気なのですが、これらは大きな出血後に2~3ヶ月もすると、増殖網膜症とって、目の中にカサブタを作ったりと重症化しやすくなります。なので遅くとも3ヶ月など、手遅れにならないうちに手術をお勧めすることが多くなります。
ただし、網膜剥離が硝子体出血の原因であれば、手術は早ければ早いほど成績が良いですし、加齢黄斑変性や動脈瘤破裂で、網膜の下に血が溜まった病態(網膜下血腫)なども手術を急ぐ必要があります。(網膜下血腫の洗浄はリスクが高く、行わない場合も多いのですが)

手術が100%安全なら、こんなに迷わないのですが、
出来るだけ安全で良い結果を求めると、
いつ手術を勧めればいいのかは、眼科医としても難しいのですよね・・・。

今日、紹介で緊急手術となった、つくば市の患者様は、先月から硝子体出血で開業医様を受診中でしたが、出血が多くて原因が分からないままでした。その後の診察で網膜剥離を疑われてて、本日当院を紹介となりました。まだ、硝子体出血が濃くて、今日の僕の診察でも網膜剥離の原因となる網膜の断裂部(原因裂孔)が不明でしたが、しっかりとした紹介により、手遅れとなる前に(黄斑が剥がれる前に)、手術をさせて頂く事が出来ました。本当にありがたく思います。

まとめますと、
硝子体出血の手術時期は、出血後1~3ヶ月となることが多いですが、実際には疑われる病気によって様々です。診察や経過観察によって最適な時期をお知らせしますので、きちんと医師の指示通りに受診を行いましょう。

2018年4月10日 追記
近年、ものすごいスピードで硝子体手術の安全性が向上しています。手術自体による合併症のリスクが低下しており、硝子体出血で様子をみて手遅れになるリスクとの天秤の関係が変化しており、2週間~1ヶ月程度で手術を検討することが標準的になってきています。

今日は親知らずでお世話になった、歯科口腔外科の先生たちと食事をしました。少し酔っ払いですが、僕はまずまず酔っ払っても、ブログを書くのが可能なようです??(誤字・脱字があったらご勘弁を。)

硝子体出血① 病態・原因・治療

今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 11件
・緑内障手術(エクスプレスシャント)1件
・網膜硝子体手術 4件(茎離断3件・増殖1件)
(増殖糖尿病網膜症2件、黄斑前膜1件、硝子体出血/静脈閉塞1件)
無事に終わりましたが、糖尿病の方が大変で、出血を取り除くと、

増殖膜(カサブタ)をハサミで切って、網膜から剥がしたり。というのが、目の中に10か所くらいビッシリ。眼科で定期検診を受けていたようなのですが・・・。疲れた。
定時を思いっきり過ぎました・・・。スタッフの皆さん、お疲れ様でした。いつもありがとうございます。

今日の手術から、一つ話題を。
硝子体出血①(しょうしたいしゅっけつ)

眼球はカメラによく似ていますが、角膜(黒目)側から、光が入ってきて、水晶体(レンズ)で光を曲げて、網膜(フィルム)で光を感じ取ります。硝子体は、レンズとフィルムの間、イラストの矢印、目の中で最も広いスペース(硝子体腔:しょうしたいくう)を占める、ゼリー状の組織です。
卵の白身のようなベトベトした組織で、若い時には目の中いっぱいに。加齢よって干からびたりすることを以前に書いたことがあります。(飛蚊症の項)

硝子体出血は、この硝子体腔に出血が広がってしまった状態です。

症状
本来、無色透明で光を通過させるはずの硝子体に赤い出血が起これば、出血が光をさえぎるために、見え方を低下させます。
・出血が極少量であれば、飛蚊症として認識されたり、
・中程度であれば、視力低下や、血液の濃いところ薄いところが動いたりして、もやが動いているようにみえたり。
・出血が多い場合には、「真っ暗」など、高度な視力低下を引き起こします。

原因
原因は主に網膜や脈絡膜など、眼球の後方からの出血ですが、網膜から出血を起こす病気は数えられないくらいあるのですよね・・・。一応、記載すると、
・網膜静脈閉塞症(中心静脈・中心静脈分枝閉塞症)
・糖尿病網膜症
・動脈瘤破裂
・加齢黄斑変性症
・高血圧網膜症
・網膜剥離
・くも膜下出血(テルソン症候群)
・ぶどう膜炎
・外傷
・後部硝子体剥離
・感染症
・腫瘍
    などなど。

治療
原因となる疾患がハッキリしている場合には、その治療が必要です。
糖尿病網膜症なら血糖値のコントロールが必要ですし、
ぶどう膜炎なら、ステロイドによる消炎が必要です。
ここでは、大本の治療以外の起こってしまった出血に対する治療を記載します。
①経過過観察
血が出続けている状況ではなく、一過性の出血のみで止まってしまった場合には、よほど濃い出血などをのぞいて、自然にキレイになっていくのを待ちます。
(手足の内出血も、時間が経てば、自然に吸収されますよね?)
②止血剤・血管強化薬
アドナやシナールなどの内服薬を使用することがあります。
③注射
原因となる病気の種類によりますが、抗VEGF薬(アバスチン・ルセンティス)とよばれる薬や、ステロイド剤を、眼球内や眼球周囲に注射をする事があります。
④手術
手術で眼球内にと直接機械を挿入し、出血を除去・洗い流したり、出血の原因をレーザー光線で焼いて、止血をしたりします。

今日の患者様は94歳で、県南の眼科様から昨日紹介となった方です。目の中が血みどろで、視力は光覚弁といって、光が分かるか分からないかくらいです。
まず、仰向けに寝て、点眼薬の麻酔⇒消毒⇒注射の局所麻酔

白内障がある場合には、一緒に手術をしてしまいます。


次に、黒目の周りに、3~4か所の穴をあけて、直接眼内に機械を挿入します。内が赤いのが分かりますか?


眼球内で処置をしている写真です。出血が多い場合には、ただ赤く見えるだけの写真になってしまうのですが・・・。これでも一生懸命洗っている最中です。

硝子体出血の手術と、ひとえに言っても、
簡単なものでは15分くらい。重症例では1時間かかることも。
術後の見え方も、1.0と良好なものから、失明に近い状態まで様々です。
どうしてそんなに違うのか?というと、出血をした原因の病気や、出血をした場所によって様々だからです。
次回は、そのあたりをもう少し詳しく書いてみます。

今日の94歳のおばあちゃんは、黄斑変性という悪い病気の疑いで紹介だったのですが、手術で出血を除去して観察すると、静脈閉塞症という病気だったようで、予想以上によい結果になりそうです。良かったよかった。