患者さんの家族の協力

珍しく2日連続でブログ更新!
実は上の娘二人が通う学校に寮ができて、体験入寮という形式で日曜から土曜までまるまる1週間、面会謝絶の状態です・・・。寂しい反面、僕自身は時間が空いて仕事がはかどっています。
小学1年生の子に大丈夫だろうか?と本心では心配していますが、うちの子含め、最近の子供は間違いなく過保護に育っていますし、自立心・自尊心の形成にはいいことなのかな?学校の先生方も大変でしょうが、信じて見守る今週です。

実は、僕の外来では患者さんに結構厳しいことも話すのですが、今日はそれについて。

患者さんの家族の協力
僕は毎週必ず、糖尿病網膜症の手術をします。多い週は網膜症の手術だけで10件をこえることも。
網膜症にもいろいろな病態があり、出血で濁って見えない人が手術で視力を取り戻すケースもありますが、多くの眼底疾患の手術は「回復ではなく、失明を防ぐため。悪化を防ぐため」の手術であり、白内障と比べると術後に喜んでもらえることが少ない手術です・・・。
それでも、治療をして将来の失明を防ぐことに僕はやりがいを感じています。
そして、せっかく一度救った目が再度悪化して再手術をしたり、最終的に見えなくなっていくのを見るのは、本当にやるせない気持ちになるのです。

糖尿病で網膜の血管が半分、50%詰まった時には、レーザー治療で網膜を半分殺して、目の機能を半分の50%にすることで、残った半分の血液で網膜を賄える状態にバランスを取ります。手術でレーザーを追加したり、出血を洗い流したり、増殖膜(カサブタ)を除去したり。網膜の手術の成績は日進月歩で、大出血で失明というケースはほとんどない時代となりました。
しかし、レーザー治療も手術治療も決して網膜の血流を正常の状態に戻したわけではないのです。半分の血流で賄えるように一度バランスを取っただけ。
その後にさらに血管が詰まって、血流が30%しかなくなればバランスが崩れ、20%間引くための追加の治療が必要ですし、最終的に全ての血流がなくなったら誰がどうやっても失明してしまうのです。

当院かかりつけの患者さんは、よくご存じだと思いますが、僕はその後の全身コントロールに関して、かなり口うるさい医者です。
せっかく一度助かった目が再度悪くなっていくのが本当に嫌なのです。いつもお願いをしていますが、
・糖尿病網膜症で手術を受けたような人は絶対に禁煙をして頂きます。
外来で煙草臭い人がきたら、ポケットにあった煙草を診察室で捨てることも多々あります。
厳格な血糖コントロールや血圧コントロールにも口を出します。
糖尿病もピンキリで、不摂生の塊のような人の血糖がよかったり(軽い糖尿)、食事も運動も禁煙もしっかりやっているのに血糖が下がらない(悪い糖尿病;家族歴など)。そういう可哀想で重篤な糖尿病の方もいるので一概には言えないのですが、外来でまだまだ努力の余地がある人がいれば、いろいろとキビしいことを話してしまいます。

ここでお願いなのですが、糖尿病の管理というのは一人ではなかなか難しい
のだということを、家族の方にも必ず知っておいてほしいのです。手術前後は基本的に全患者様のご家族をお呼びしていますが、そこで僕がよく言っているとても嫌味なセリフがあります。
「普通の家族が外出後にお饅頭やアイスのお土産を買ってきたら、ほほえましいと思うのですが、あなたが食事の調節を考えずに、ただ患者さんにアイスを買ってきて渡したら、早く死ね。と言っているのと同じですよ。」
自分でもかなりひどいことを話していると思いますし、伝えた直後にご家族の表情が強張っていることに気が付くことも多々あります。
が、憎まれても、これが僕の仕事なのです。

糖尿病網膜症で手術が必要になった方の多くは、あまり自制心が強い方ではありません。(全員がそうだといっているのではなく、ある程度の傾向があるという意味。きちんとしている患者さんも沢山います。)そういう人のそばで、家族が好きなものを好きなだけ食べている時に、「あなただけ我慢して」というのは現実的でありません。
煙草も同じです。禁煙後の再発は周りの人が吸っていたので。というのが一番のリスクになるのです。
眼科でご家族含めて説明した後は、かかりつけの内科様にも、家族全員で一緒に受診して「どうやったら血糖コントロールがよくなりますか?」と聞いてきてもらうようにしています。

目が見えなくなった人を、ご家族自身で介護するというのはものすごく大変なことです。目が見えている間に、食事や運動に気を使ってあげたり、緑内障の人は朝晩目薬をつけてあげたり。そっちの手間の方がよほど楽なはず。
糖尿病、生活習慣病、慢性疾患はご家族の方の協力で予後が大きく異なります。受診時はできる限り一緒に診察室に入るようにして下さい。

「若造がえらそうな事を言いやがって!!」と思う方も大勢いるかと思います。そう思われても、術後も禁煙できずに失明していく人を見るほうが僕は嫌なのです。

眼科医だから「目だけ見てればいい」とは思いません。当院で手術を受けた人が、生命予後も、そしてその後の人生観まで変わってしまうようなお手伝いができればと思って診療を心がけています。

増殖糖尿病網膜症手術?

年末が近づき、今日は午前の小美玉、午後のクリニックともに患者さんが少なめで、ゆったり過ごしました!

一昨日の糖尿病の手術の方も経過良好で退院です。
今日はその手術について書いてみます。
増殖糖尿病網膜症手術
土浦の眼科様から紹介で、80代の無治療の糖尿病網膜症、視力は既に0.01です。

写真中央、白いカサブタが網膜にべったりとくっついています。写真の左のほうがボンヤリ赤いのは、硝子体出血と呼ばれる出血です。
イラストで描くとこんな感じ。

赤い出血があり、緑は眼球後方の網膜を表しています。薄茶色がカサブタ(増殖膜)。カサブタのヒキツレで網膜(緑)にシワがよって内側に剥がれてきています。

手術は局所麻酔で行います。
仰向けに寝て、消毒をしてから、目を開ける器械を付けます。

黒目の左上の白目のあたりから針を入れて、眼球の後方に麻酔薬を注射します。


80代で少し白内障があるので、まずは白内障を取り除き、眼内レンズを入れてしまいます。
レンズがキレイに。

次に、眼球の内部にまで器械を入れるためのキズを黒目の周りに3か所作ります。

キズ口から掃除機のような器械を入れて、目の中の出血を取り除きます。
出血がなくなりました。


今回はカサブタが多いので、もうひとつキズ口を作り、目の中を明るく照らす照明を取りつけます。右側の写真では、左手でピンセット、右手でハサミを持って、白いカサブタを切り離しているのですが、分かりますか?
カサブタが取れました。


でも、今までのヒキツレのため、網膜はまだまだシワシワで、このままではレーザー治療ができません。

ここで、以前に書いたパーフルオロンの出番です。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4995
2011.09.04 Sunday


とても重い液体で、網膜を押しつけてシワの延ばす効果があります。


シワが伸び、網膜がピッタリとくっついた状態で、レーザー治療を行います。レーザーで焼くと、網膜は白くヤケド状になります。

網膜の隅っこの方は、構造上、黒目(角膜)から覗きこむことができません。こんなときは、図のように眼球を押して凹ませることで、隅っこの網膜も処置をする事が出来るようになります。


写真の右下のほうが内側にぽっこりと膨らんでいるのが分かりますか?ここが押し込んだ、隅っこの網膜です。重症例では隅の方まできちんとレーザーをすることで、新生血管緑内障と呼ばれる術後合併症を予防することができます。ただし、この眼球を凹ませる処置は少し痛みがあります。先生によっては内視鏡という装置を使って行う事もあります。

パーフルオロンは目の中にずっとは入れておけない物質なので、吸い出してしまいます。パーフルオロンや水を吸い出して、空気を入れます。

うつ伏せがしっかり出来る人は、空気か特殊なガスを入れて、手術後に1週間くらい、うつ伏せをして、空気の浮力でシワの延ばし続けます。今回の患者様は、80代と高齢で、片足をなくしている方なので、長期間のうつ伏せは難しそうです。

そこで、やはり以前に書いたシリコンオイルを注入します。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4995
2011.04.12 Tuesday


(これまで、シリコンオイルを入れる場合にはキズ口を広げるので出血したり、油が硬いので結構な握力を使って疲れたり、最後にキズを縫ったりしていたのですが、コンステレーションを使えば25Gの小さいキズ口のまま、簡単に30秒くらいでオイルが入ってしまいます!コンステレーションすごい!)


うーん。キレイな網膜になりました[:拍手:]
網膜のほぼ全域のレーザーを行い、オイルを入れて。
結構大きな手術ですが、白目の出血も少なくキレイに出来ました。


オイルの位置が固定するまで、こんな感じで、丸1日位はうつ伏せをしてほしいのですが、今回は残念ながら、あまり病気を理解して頂けない患者様で、まったく協力して頂けませんでした・・・[:悲しい:]一回も下を向かず・・・。
今回は運よく、うつ伏せなしでも、問題は起こりませんでしたが、空気のままだったら厳しかった。我ながらいい判断だったなと。


本日の写真です。視力は0.1程度まで上がっていますが、まだ回復途中です。

手術はコンステレーションのおかげで、1時間もかからないのですが、ブログにするのに1時間以上かかってしまいました・・・。結構大変です。
一般の方に分かりやすく!と思うのですが、難しいですよね??どう書いて行けばいいのか、来年も試行錯誤が必要そうです。

糖尿病網膜症?  網膜硝子体手術

お久しぶりです。
ちょっと学会などでサボっていましたが再開です。

今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 12件
・網膜硝子体手術 3件
 内訳
  黄斑円孔 1件
  網膜中心静脈閉塞症に合併した黄斑浮腫 1件
  白内障手術後合併症(他院様)による黄斑浮腫 1件
みなさん無事に終わっています。

この間まで、糖尿病網膜症のレーザー治療について書きましたが、
今日は、もう少し重症例での治療法です。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
増殖網膜症・硝子体手術

網膜の血管が詰まって、酸素や血液が足りなくなった場合には、レーザー治療で、網膜の一部を焼いて犠牲にすることで、大出血を防いで、他の網膜を守る。という治療を行います。
ただし、大出血を起こす前には、あまり自覚症状がないことが多く、末期の末期で、ヒドイ状態になってから、はじめて病院に来る人がたくさんいるのが、糖尿病の嫌なところです。

目の中で大出血を起こしてしまったり(硝子体出血)、増殖網膜症といって、目の中がカサブタだらけになってしまうと、増殖網膜症と呼ばれ、レーザー治療ができなくなってしまう方がいます。

増殖網膜症については、以前のブログもご参照ください。
2011.09.26 Monday
糖尿病網膜症? 進行期:増殖網膜症


例えば、こんな感じになってしまうと、レーザーが出来なくなってしまいます。
イラストだとこんな感じ。

レーザー光線は光なので、途中に赤い出血があると、レーザー光線がその場所で遮られてしまい、目の奥の網膜まで届かないのですね。

では、このようになってしまった場合には、どうするかと言うと、
手術でお掃除をします。
この手術を網膜硝子体手術(もうまくしょうしたいしゅじゅつ)と言います。
網膜硝子体手術については、以前のブログも参照下さい。
2011.06.17 Friday
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4995


こんなふうに、目に3か所くらいの穴を開けて、直接器械を入れて出血があれば出血を洗い流します。

この方は9月に手術をした方で、目の中がカサブタだらけで苦労した患者様です。カサブタが出来てしまうと、やはり手術でないと取れません。

では、手術の嫌なことを書いてみます

手術は多くの場合は3日程度の入院で行います。(どうしてもという場合には外来手術も行っています。)
重症例で手術後にうつ伏せになって頂く処置が必要な場合や、50人に一人くらいは再手術が必要になることもあり、最長では1週間も入院が必要になることもあります。

白内障手術などに比べると、少し痛みもあり、通常は目の奥の方に注射の麻酔を行います。手術時間はだいたい30分くらい。カサブタだらけの場合には剥がすのに時間がかかって、1時間を超えることもあります。

手術後の見え方は、出血しただけで(硝子体出血)、洗い流したらキレイ。という場合には、かなり回復することもありますが、
増殖膜というカサブタがたくさんあるような場合や、重度の黄斑浮腫と呼ばれるむくみがある場合などは、手術をしても視力はほとんど回復しません。
手術は回復をさせるためではなく、失明を防ぐために行うのです。

手術を行う事で、網膜剥離という合併症がおこったり、バイキンが入ったり、キズ口の出血が止まらなかったり、50名に一人などでは、再手術が必要になったりします。(どれくらいの重症の患者様を扱っているかで、病院によって多少は成績が変わります。)

そして、手術は費用が高いです。
日本の医療は保険制度によって、手術料金が一律ですが、だいたい40万円?50万円です。実際に負担するのは、その1割とか3割、多くの場合に高額医療費と言って、4万円とか8万円とかで、支払いに上限があるのですが、高いですよね[:冷や汗:]
糖尿病では、両目の手術を一緒に行うかたも多いので、全てが自己負担ではないにしろ、とてつもない金額になるのです。

そして、手術の後は、こまめに、そして長期の診察が必要になります。
レーザー治療をして、数回診察して、落ち着いてしまえば、半年に1回程度の診察で済むのと比べると、手術をした患者様は、外来にくる回数が何倍にもなってしまうのです。

手術をすると言う事自体、糖尿病網膜症では重篤な状態であって、失明を防ぐためには、視力があまり回復しなくても、痛くても、時間やお金がかかっても受けて頂くしかない。という治療なのです。
嫌な話ばっかりで申し訳ありませんが・・・。

糖尿病網膜症では、外来の定期検査をサボってしまう方がたくさんいます。
だいたい、みなさんおっしゃるのが、
「忙しくて。時間がなかったから。症状がないし面倒だったから。」といった理由です。
また、レーザー治療を勧められても、痛そうだし、お金もかかるから。と治療をしないで来なくなってしまう人もいます。

なんども繰り返しになりますが、糖尿病では、自覚症状が出てからでは遅いのです。
治療が遅れれば遅れるほど、あとからかかる、治療費や時間は膨れ上がっていくのです。結果を考えれば、早期発見・早期治療が、もっともお金も時間もかからないのです。

当院は、一般の病院様に比べると、糖尿病の手術の紹介が多く、しょっちゅう手術をしています。出来る限りの視力を残したいと、頑張ってはいますが、やっぱり手術は大変です。手術にならずに、手遅れになる前のレーザー治療で落ち着くのが一番です。

糖尿病の皆様、どうか眼科の定期検査に来て下さいね。
(ほとんどの患者様は年に1回?3回くらいですよ。)

注)
大出血をしたからと言って、全員が全員、手術になるわけではありません。
止血剤を1?2ヶ月飲んで、出血がおさまってしまう場合もありますし、非常に稀ですが、手術後に失明することだってあり得ます。手術が必要かどうかは、病気の状態や、手術のリスクなど、担当医とよく相談しましょう。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市 茨城町)

糖尿病網膜症?  網膜光凝固術(レーザー治療) その3

今日は以下の手術を行いました。
・外斜視手術 1件
・白内障手術 8件
・網膜硝子体手術 2件(黄斑前膜・糖尿病網膜症)
無事に終わっています。
糖尿病の人かたは30代の男性で、糖尿病のカサブタがまずまず張っており、ちょっと大変でした(水晶体温存・茎離断)。
外斜視も20代の男性ですが、基本的に若い男性は、手術の痛みや緊張感に弱い傾向があります。人の手術はできるのですが、僕も手術を受けることになったら緊張しそうです。だいたい女性の方が痛みに強いようです[:女:]

糖尿病網膜症
網膜光凝固術(レーザー治療)

さて、実際のレーザーの方法です。
?麻酔の目薬をします。
(これは目を固定するレンズをくっつけるため。レーザーの痛みは消えません)
?診察台に顔を乗せて、目が動かないように特殊なレンズを目にくっつけます。

?部屋を暗くして(医師が見やすくするため)、レンズを通して、レーザー光線を発射し、網膜にヤケドを作ります。

(赤矢印がレーザー)
?一つのヤケドが直径0.2mm?0.8mm程度の円形ですが、目の血管の詰まり具合によって、網膜全体で、500?重症例では2000個程度のヤケドを作ります。
レーザーが網膜に当たると、チクッとか、ズキンと痛みがあるようで、患者様には申し訳ありませんが、1日に数百回の痛みを我慢して頂くことになります。皆様ごめんなさい。
1回の治療でヤケドを作り過ぎると、目に負担がかかって、失明は防げるものの、視力が下がってしまうことが多いため、治療は3?4回程度に分けることが普通です。例えば、1日に1600発のレーザーを照射する場合よりも、1日の治療では400発のレーザーを照射し、2週間毎に4回治療を行い、合計1600発としたほうが、多くの場合で良好な視力を残せます。今日は網膜の右上のほう、次回は左下のほうなどと勧めていきます。
治療費がかかるのは最初の1回だけです。)


治療後の写真です。レーザーをうつ目的は、その部位の網膜を多少なりとも殺してしまって、血液を欲しがらなくさせることです。ですので、レーザーでヤケド状になった部分は、ある程度見えにくくなります。赤矢印が物を見る中心の網膜で黄斑(おうはん)と呼ばれます。この部位にレーザーを照射すると、視野の中心部が見えにくくなってしまうため、基本的に絶対に照射してはいけない部分です。丸く囲った部位も、視力・視野として生活上とても重要な部位になるので、これらの部位を避けて、それよりも外側にレーザーを照射します。(黄斑浮腫という状態で、仕方なく中心部に迫ってレーザーをうつこともあります。)
写真の周りの方に、灰色?黒色の丸い斑点が見えるでしょうか?これが一つ一つのレーザーによるヤケドのあとです。この方は一昨日こられた65歳の患者様ですが、治療前はひどい出血の重症例でしたが、半年前に治療して、ヤケドの部分の網膜を犠牲にしたことで、現在は非常に落ち着いた状態で、次回からは半年に1回の検査で済む事になりました。視力は0.9程度と免許証を維持できていますが、焼いた部分の見え方は少し悪くなるため、視野の外側の方は少し暗くなる(視野が狭くなる)という自覚症状は残ります。

以前は蛍光眼底造影検査などで、血流の悪い部位のみにレーザーを行う、巣状光凝固というものが行われる事も多かったようです。ただし、この場合には網膜症の進行を抑える能力が低かったり、将来的に追加のレーザーを必要とする場合も多々あり、欧米ではほとんど行われません。日本でも現在は多くの病院で、網膜を全体的に照射する、汎網膜光凝固というものが行われます。
治療はかなり高価ですので、一度治療をしたら、可能なら一生涯、無理でも出来るだけ長い期間、再治療が必要にならない方がいいですので。

これは、糖尿病網膜症と網膜中心静脈閉塞症という病気の合併で、7月29日にレーザーをした60歳女性です。

レーザー後、数日の写真です。沢山の出血があり、黄斑浮腫という病態を伴っているため、視力は0.5まで低下しています。白く映っている丸い斑点がたくさんあります。この淡い、白い丸が、レーザーをしたあとです。ヤケドができてすぐには、このように白くうつります。
(この方の治療はレーザーのみではなく、ステロイド剤やホルモン剤の注射を併用しています。)

これは治療後一ヶ月、右下の方の丸は、まだ白く見えますが、左上の方は、白い丸からやや灰色の丸に、色が変わってきています。浮腫はなくなり、視力は1.0まで戻っています。

これは9月にいらしたときの写真です。レーザーのあとが灰色?黒っぽくなってきています。このような色になると、レーザーの効果が安定して、出血しにくい網膜となります。視力も1.0を維持、出血がほとんど無くなっているのが分かるでしょうか?次回の診察は2ヶ月後、それでも大丈夫なら年に2?3回の診察となっていきます。

たまには宣伝を。
当院でのレーザー治療の特徴です。
?失明を防ぐだけでなく、出来る限り、視力を温存することを目標としています。
黄斑浮腫という病態を伴うと、多くの場合で著しい視力の低下をもたらすことが分かっています。当院では、最高レベルのOCT検査機器を用いて、浮腫の評価を行い、少しでも浮腫がある場合には、ステロイド剤の注射や、アバスチンというホルモン製剤の注射を積極的に併用しています。(アバスチンは無料で行っています。)
それでも、浮腫が残ってしまうばあには、強力な治療法である網膜硝子体手術を行っています。
(黄斑浮腫に関しては、後日、ブログに記載していきます。)

?高い治療効果を期待して、しっかりとしたヤケドを作っています。
レーザーは血流を元に戻す治療ではありません。一部の網膜を犠牲にして、必要とする血液・酸素の量を目減りさせる治療です。視力に影響しにくい、周辺部の網膜(視野の外側の方)に、しっかりとしたヤケドを作って、血液・酸素の必要量をきちんと下げるようにします。まれに、治療後の患者様で、針の穴のように小さいヤケドのあとを見ることがあります。残念ながら、小さいヤケドでは、痛みがあって、費用が高いだけで、まったく治療をした意味をなさない場合もあります。しっかりとした面積のレーザーのヤケドを作ることが重要で、当院では時間をかけても、きちんとしたヤケドを作るようにしています。結果として、長期間の治療効果が期待でき、1年後などに追加をするかたは、ほとんどいらっしゃいません。

?できるかぎり痛みに配慮します。
当院では、最新式のレーザー機器を用いて、出来るだけ痛みや視力に優しい治療を行っています。それでも、痛みが辛い場合には、積極的に麻酔薬の注射を行い、無痛での治療を行っています。(レーザー時の麻酔は無料です。約半数の方が麻酔を希望されています。)
(注射をした場合には、治療後、数時間は視力が大幅に低下します。ご自身のみで帰宅する場合は3時間程度の休憩が必要になります。)

夕飯がまだなのですが、おなかも減ってきたので、今日はこの辺で。
明日も県南の病院様から紹介の患者様がくると電話があったようで、また網膜剥離かな?今日は早めに寝ましょう。

レーザーに関しては、この3回でひとまず終了にします。
今日も、最後まで読んで頂いた方ありがとうございました。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市 茨城町)

糖尿病網膜症? 網膜光凝固術(レーザー治療) その2

今日は午前・夕方で外来が80名ちょっと。
昼休みの手術は以下の手術を行いました。
・白内障手術 6件
・網膜硝子体手術 1件(糖尿病網膜症・硝子体出血)
無事に終わっています。

今日は、昨日の続き、レーザー治療です。
糖尿病網膜症
網膜光凝固術(レーザー治療)

レーザーは、昨日書いたとおりで、決してもとに戻す治療ではありません。一部の網膜を焼いて殺して、犠牲にすることで、全体としての必要な血液の量を減らし、少ない血液で重要な部位のみだけでも生き延びさせようという治療です。

治療は少なからず痛みがあったり、金額が高めだったり、嫌なことばかり。
でも、失明のリスクが高い場合には、仕方ないのです。

では、失明のリスクが高い状態・レーザー治療が必要な状態とはどんな状態でしょう?
新生血管が出来ていたり、大出血を起こしていたり、カサブタが出来ている場合には、もちろん増殖網膜症として、レーザー治療、もしくは手術が必須になるのですが、増殖網膜症になってからの治療では、むしろ遅すぎで、安全に治療を行う場合には、増殖前網膜症の段階でレーザーを行う必要があります。

ちょっと、日本で一般的な考えと海外では考えが一部異なるのですが、
まず、海外で一般的な分類で。
American Academy of Ophthalmologyでの中等症にあたるもの
?4象限の全てで20個以上の網膜出血を認める場合
?2象限以上で、静脈の数珠状拡張を認める場合
?1象限以上で、著名なIRMA(網膜内細小血管異常)を認める場合

となっています。象限というのは、眼底を右上・右下・左上・左下と分けた場合の各部位になります。
海外では、後述の蛍光眼底造影をあまり行わずに、血流が悪い場合に起こってくる出血や、血管の変化から治療の適応などを決めていきます。

次に日本では?というと、多くの施設で、
蛍光眼底造影検査という検査を行って決定します。
造影検査で、無血管野があれば、治療の適応と考えていきます。


点滴で、血管の中に造影剤と呼ばれる薬を流して、特殊な条件で写真を撮ると、血管の中の造影剤が白く光ります。造影剤は血管の枝分かれとともに広がっていきますが、正常の毛細血管にまで流れた部位では、写真の水色矢印のように薄い灰色としてうつります(灰色の部位は正常な血流がある)。
糖尿病で、血管が詰まった部位には血液が流れないので、造影剤がいきわたりません。写真の緑矢印がさす黒くうつる部分には、血流がないことが分かります。この黒くうつる部分を、無血管野(むけっかんや)と呼びます。ピンクの矢印の部分は血流の悪いところで、血管に変化が起こってできた、クネクネした血管で、IRMA(網膜内細小血管異常)と呼ばれる悪性の所見です。

日本の基準では、血管が詰まって血流が悪い部分(無血管野)があるというのが治療の基準になります。ですので、血流が悪くなってから、その後におこる出血や血管の変化をみて治療をする海外の考え方よりも、やや早期に治療が出来る場合が多くなります。

蛍光眼底造影検査は、ごくごく稀ですが、薬に対するアレルギーで、ショックと言って、心臓が止まってしまう合併症が起こることがあり、海外での診断の方が全身的には安全と言えるかもしれません。
ただし、蛍光眼底造影検査を行うと、病気の状態がとてもよくわかるので、出来れば行いたい検査です。
例えば、9月に検査をした症例ですが、こんなこともあります。

写真だけ軽い気持ちで見ると、赤く囲んだ部分、水色の矢印よりも左上の方の血管が少しクネクネして見えますが(静脈の軽い数珠状変化)、全体としては出血や白斑が少なく、重症という雰囲気はありません。
同じ症例の造影検査の結果です。

水色の矢印の部位が同じ血管を指しており、カラー写真よりもやや左上の部位の写真になります。造影検査では写真の左上のほうは黒くうつり、無血管野が広がっています。赤い矢印の先では白い造影剤が血管から漏れ出して強く光っています。これは、血流の悪い部分に生えてきた新生血管(できそこないの血管)から、造影剤が漏れ出している所見です。早急にレーザー治療が必要です。写真中央から少し右にはクネクネ血管のIRMAも見えます。

では、おさらい。
レーザー治療を行うか、どうかには、蛍光眼底造影検査を行うと、とてもよく判断できます。造影検査で、血流がない部分(無血管野)があれば治療をする必要があります。

本日も読んで頂けた方、ありがとうございました。
思ったことを、だらだら書いているだけなので、誤字脱字あったらすみません。レーザーだけでも、何日も書くことがありますね。これを実際の診療では限られた時間で理解頂かないといけないのですが。
次回もレーザーのことが続きます。
糖尿病網膜症は書くこといっぱい。
緑内障なんかも書きたいのですけどね。ゆっくりと頑張ります。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市 茨城町)

糖尿病網膜症? 網膜光凝固術(レーザー治療) その1

今日は肌寒い1日でしたね。
もうすっかり秋です。食べ物がおいしい!

しばらく糖尿病が続きます。
糖尿病網膜症
網膜光凝固術(レーザー治療)

これまで、いろいろ書いてきましたが、
糖尿病網膜症を簡単におさらいします。
?血液がドロドロ⇒網膜の血管が詰まる。
?血液・酸素が不足する。
?網膜が血液・酸素を欲しがる
?網膜に新生血管が生える(できそこないの血管)
?新生血管から大出血
?目の中がカサブタ(増殖膜)だらけに
?失明
といった具合で進みます。

血管を詰まらせないこと。糖尿病にならないことや、良好な血糖コントロールをしていく事が一番よいのですが、これは治療法というよりは、予防になるのでしょうか。また、この分野に関しては、眼科ではなく、患者様自身、そして内科の先生方のお仕事になるかなと。

では、眼科で行う治療法ですが、
理想的な治療法とは、詰まった血管を元に戻すことです。
脳梗塞などで大きな血管が詰まった場合には、急いで救急車を呼んで、入院して、血液をサラサラにすることで血栓を溶かします。では、眼科ではどうでしょう?
網膜症は、小さな毛細血管がゆっくりと様々な程度で、詰まっていく病気です。病気があるとき一気に起こるような脳梗塞等とは違って、何時何分に詰まった。というような病気ではありません。もしも、脳梗塞で同じような方法で、血液をサラサラにする点滴で、血管の詰まりを治していくのだとすると、一生涯入院しなくてはいけません。それはできませんよね?

糖尿病網膜症では、「詰まってしまった血管は仕方ない。治らないもの」だと、諦めるしかないのです。残念ながら「完全にもとに戻ることはない病気」なのです。

糖尿病網膜症の中心となる治療法は、
網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)になります。
簡単にいうと、レーザー光線で網膜を焼くことで、将来的な出血などをおこらなくさせる治療です。
治療というと、「もとに戻る。」「よく見えるようになる。」というイメージを持たれる方が多いと思いますが、残念ながら、そういう性質のものではありません。

もう少し、具体的に書くと、
一部の網膜をレーザーで焼くことで殺してしまうのです。焼いた部分の網膜が死んでしまうと、全体として網膜が欲しがる血液が少なくなります。すると、網膜から新生血管は新生血管を生やす必要がなくなり、結果として大出血が起こることがなくなるのです。

健康な、よく見える目(網膜)は血液や酸素を沢山消費します(血液の需要が多い)。健康な状態であれば、血管の詰まりはなく、網膜が欲しがる十分な量の血液が流す事が出来ます(血液の供給が十分)。
この血液の需要と、供給のバランスが取れていれば。または、供給量の方が多ければ問題は起こらないのです。

糖尿病網膜症で血管が詰まると、十分な量の血液が流れません(供給量が少ない)。この状態で、網膜の全てが血液を求めたら(需要が多い)、バランスがとれずに、網膜がより多くの血液を欲しがって、新生血管が出来てしまうのです。
先に書いたように、詰まった血管を元に戻すことはできないので(供給量は増やせない)、レーザー光線で、網膜を焼いてしまい、ある程度の機能を奪ってあげると、網膜の血液を欲しがる量が減って(需要量の減少)、需要と供給のバランスを取ってあげるのです。良く見える目よりは、視力が下がった目の方が、少ない血液・酸素で生きていけます。失明を避けるために、一部の網膜は犠牲になってもらおうというのが、レーザー治療の基本的な考え方です。
ですから、網膜光凝固術(レーザー治療)を受けたら、基本的には見えかたは悪くなるのです。
(一部の症例で、黄斑浮腫という病態を軽減した場合や、硝子体出血と呼ばれる状態が軽減した場合には、視力が改善することもあります。)
それでも、詰まった血管を放っておいて、最終的には失明してしまうに比べれば、やるべきというか、やるしかない治療だとお考えください。

他にも、網膜光凝固術による治療には、嫌なことが・・・。
痛い
 網膜を焼く時には、ある程度の痛みがあります。
 症例によって異なりますが、治療全体としては、片方の目に500ヶ所?2000ヶ所のヤケドを作りますので、その回数分、「チクッ」とか「ズーン」とか目の奥に痛みを感じます。

高い
 治療の金額は保険で決められていて、片方の目で、1割負担で18100万円、3割負担だと、54300円。両眼であれば、その倍の金額です。(通常は、治療を数回に分けて行いますが、費用がかかるのは最初の1回だけです。病状が落ち着くまでの期間に追加をしても、追加の費用は請求されません。)

嫌な治療ですよね・・・。
・治療によって、多少見えにくくなっても。
・治療が痛くても。
・どれだけお金がかかっても。
治療が必要な状態になってしまったら、
失明しないためには、行わざるを得ないのです。

ですので、治療をしなくても済むように、一番の治療は早くから、しっかりと血糖のコントロールをしていくことが重要なのです。

次回は治療の適応や、具体的な方法について書こうかな。

今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
言い訳になりますが、日々書いて行くのに、校閲の時間がなかなか・・・。
誤字脱字、読みにくいなどありましたらすみません。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市 茨城町)

糖尿病網膜症? 糖尿病眼手帳

今日は午前が小美玉で外来、午後はクリニックでした。
午後の外来は、久しぶりに、ものすごーく空いていてのんびりでした[:よつばのクローバー:]
こういう時間に診断書とか、書類の仕事をやっつけてしまうといいのでしょうが、外来中と思っていると、なんだかんだ気になっちゃって、他の仕事はなかなかテキパキとは進まないんですよね。要領がわるいのかな??

今日も糖尿病に関してです。
糖尿病眼手帳(とうにょうびょうがんてちょう)
糖尿病などの患者様は、かかりつけの内科などで、血糖値や血圧を書いてもらう手帳をお持ちの方が多いと思います。
外来で先生に、「血糖は189で・・・」とか言われても覚えにくいですが、ノートに書いてもらえば確実ですよね。そして、何より自分の体のデータをきちんと保管することで、治療にもより積極的に参加できます。
眼科でも、「今回は出血が少し増えていますね。・・・・次回は4ヶ月後で。」なんて言われても、普通は、なかなか把握できません。
「症状もないのに、出血??増えているって、失明するの??」という具合に思ってしまう人も多いはず。
また、急に説明されて、理解もあいまいなまま、内科の先生に「眼科の結果はどうでした?」と聞かれても困りますよね?

?自分の病気・病状をきちんと理解する
?内科医・眼科医の間の連携を深める

この目的のために、とっても便利で重要なものが
「糖尿病眼手帳」なのです。

糖尿病眼手帳は日本糖尿病眼学会により作成され、
増え続ける糖尿病、糖尿病網膜症による失明を防ぐ、
糖尿病網膜症の早期発見、適切な治療、そして患者様の診療放置・中断をいかに防ぐかということを目的としています。

こんな感じ。ポケットにも入ります。
内科様などで渡される、血糖コントロールのノートを一緒に持てるサイズです。


中には、こんな説明も。
赤線を引いてみましたが、ここが重要です。
自覚症状が出てからでは遅いのです!!
眼底検査の目安ものっています。
ただ、これならまず安全という、一般的な目安であって、
増殖期で2週間?1ヶ月、増殖前で1?2ヶ月とでとかありますが、
実際にはもう少し間隔をおいて来て頂くことが多いです。
(血糖が異常に高い人や、レーザーや注射の治療中の人は、毎月来てもらう事もありますが)


病気の説明もありますので、自分が現在どの段階にいるのか。なども理解しやすいと思います。


これが、診察後に僕たちが記載するページです。
診察日や、次回の予定、視力、眼圧、網膜症の様子や、悪化・改善・横ばいなどが記載されます。

日本中ではすでに100万部以上の手帳が使われたようです。
当院は網膜症の手術などで紹介を頂くことが多いので、まだ開院1年半ですが、在庫からは、すでに500?600部をお渡ししたようです。糖尿病の患者様はたくさんいらっしゃいますね。

ご本人がご希望されない場合には、お渡ししていませんが、本当は、出来る限りお持ち頂きたいなと。
眼科の受診後は、内科の先生に見せて頂ければと思います。目の状態によって、内科の治療を変更頂くこともよくあります。また、診療情報といって、紹介状の記載にはお金がかかってしまいますが、このノートの記載は無料です。(たぶん全国で。)

また、なにかの理由で別の眼科様に受診する場合にも、眼科医が見れば、これまでの経過が一発で、かなり正確にわかります。転勤が多い人で、眼科を毎年変更しなくてはいけない人も、次の眼科の先生がノートへの記載を引き受けてくれます。(普通の眼科医ならきっと。)

そう思って、お渡しするのですが、たまーにお渡しした当日に、待合室の忘れものになっていることが・・・[:冷や汗:]

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糖尿病網膜症? 進行期:増殖網膜症

今日はお昼に白内障手術を7件行いました。
みなさん無事に終わっています。

今日は網膜症の進行期(末期)についてです。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
増殖網膜症(ぞうしょくまくしょう)

中期では血液の流れが極端に悪くなった(虚血)部分の網膜が白くなり、軟性白斑と呼ばれました。この段階で、造影検査で血流がないことを確認した場合にはレーザー治療を行うのですが、残念ながら、きちんと治療を受けられなかった場合には、進行期(末期)へと進んでいきます。

人間の体は、様々なストレスから回復しようとする力が働きます。例えば、手足をケガして、血管が切れた場合には、新しい血管を生やしたりして、出来るだけもとに近づけようとするのです。
網膜も血管が詰まって、あまりに血液・酸素が足りなくなると、網膜は自分で血管を生やそうと頑張るのです。このように書くと、新しい血管が生えて、血流が戻れば万々歳というようにも思うのですが、残念ながら、目の場合にはそう上手くいかないのです。
手足の血管は、ケガの後に新しく生えてくる血管でも、多くの場合には全く問題なく機能するのですが、網膜の血管が詰まった場合の、後から生えてくる新しい血管(新生血管:しんせいけっかん)は、ほとんどができそこないしか生えないのです。もともと、目の中の血管は、非常に精巧にデリケートにできているのですが、緊急事態に生えてくるような血管には、そこまでの精巧には形成されないのです。
手足の血管は多少のできそこないができて、もしも出血したとしても、「アザができた」くらいで済むのですが、目の中で出血した場合には、場合によっては失明につながる大惨事になってしまうのです。

できそこないの血管(新生血管)は、ちょっとした血圧の変動などで、すぐに出血してしまうので、目の中が血みどろになってしまうのです。


水色の矢印の先に、ちょっと見づらいのですが、もやもやとした細い血管が見えます。これが新生血管です。緑の矢印は、新生血管から出血した状態です。


このように目の中に出血をすると、目の中が赤い出血で埋まってしまうために、光が目の奥、網膜まで届かなくなるために、急激に暗く、見えなくなってしまいます。


出血が続いて、そのまま真っ暗という場合もありますが、出血が自然に止まって、途中でキレイになってしまう事もあります。ただし、どちらにしても、ある程度以上の出血が眼の中に存在すると、数か月たった時点で、目の中には、写真、水色やじるしのような、カサブタ(増殖膜:ぞうしょくまく)ができてしまいます。カサブタは、ヒキツレを起こす性質があり、目の中のカサブタ(増殖膜)がヒキツレを起こすと、網膜が内側に引っ張られ、最終的にはグチャグチャになって失明してしまうのです。

「症状」
出血の程度によりますが、出血が多い場合には、出血直後から真っ暗になることも多々あります。直前まで1.0の視力があった人が、トイレから帰ってきたら、全く見えなくなっていた。なんてこともよくあるのです。
出血が少量であれば、その部分が曇ったように見え、モヤが動いて見えます(飛蚊症)。
出血量が少なくて、目のはじっこのほうでのみ出血した場合などは、出血していることに気がつかないまま、目の中がカサブタだらけになっていた。なんて人もいます。
とにかく、糖尿病網膜症の症状は、気がつきにくい。分からない。と言う特徴があり、気がついた場合には末期の末期なんて事が多いのです。

「治療」
出血する前であったり、出血量が少なくて、外来での網膜光凝固術(レーザー治療)で抑えられる事もありますが、ある程度以上の出血があったり、カサブタが張ってしまった場合には、手術によって目の中に器械を入れて、出血を洗い流したり、カサブタをはがし取ったりする必要がでてきます。このような手術を網膜硝子体手術と言います。

手術は、全員が全員上手くいく。という物ではなく、時には失明につながる合併症を起こすこともあります。ですので、症状のない中期の段階で、レーザー治療を行うことが大事なのです。

「診察」
糖尿病眼学会などでは、一般的に2週間?1ヶ月に一回の診察としていますが、基本的には定期検査よりも治療が必要な段階であり、何ヶ月に1回の診察と言うよりは、治療のスケジュールを組んでいく必要があります。

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糖尿病網膜症? 中期:増殖前網膜症

今日は網膜症の重要な病期、中期についてです。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
増殖前網膜症(ぞうしょくぜんまくしょう)

初期の単純網膜症から、さらに血管が詰まっていくと、単純網膜症で見られた赤い小さな点々(網膜出血)、白い小さな点々(硬性白斑)よりも大きな斑点が出てきます。

これが増殖前網膜症(中期)の患者様の1例です。
初期の単純網膜症に比べて、赤い網膜出血(水色の矢印)が大きくなります。また、白い大きめの斑点(軟性白斑:なんせいはくはん)を認めるようになります。軟性白斑は強い虚血(きょけつ:血液が足りない)を示す所見で、血液不足によって網膜の細胞が破壊されたり、むくんだりしている状態です。血液の多い赤ちゃんの顔が赤く、亡くなったり、体調の悪い方の顔は、血流が悪く青白くなるのと似ていますね。

血液の不足具合を詳しく調べる検査として、蛍光眼底造影検査(FAG)があります。蛍光眼底造影は、造影剤という特殊な条件で光を出す物質を、血管に点滴して、目の中にどのように流れるかを調べる検査です。

上の写真と同じ患者様の蛍光眼底造影検査の結果です。水色の矢印が指している白い線は、もともとある正常の血管です。血管の中に造影剤を点滴で入れるので、血管の中の造影剤からでる光が、しっかりと白くうつっています。この血管が網の目状に枝分かれをして、目の中に毛細血管として広がっていくのですが、緑の矢印の先のあたりは、薄い灰色にうつっています。この部位にはきちんと血液がながれ、造影剤が広がっているという事になります。
では、上の写真で軟性白斑となっていた赤い矢印の部分はというと、造影検査の結果では、黒く抜けてしまっています。血液が全く流れないため、造影剤もいきわたらずに白く光らず、黒くうつってしまうのです。この黒くうつる、血流のなくなってしまった部分を無血管野(むけっかんや)と呼びます。

「症状」
この状態でも、多くの患者様で自覚症状がありません。視力も良好に保たれる場合の方が多くなります。(出血や網膜のむくみが、物を見る中心部にあると視力が下がる場合もあります:糖尿病黄斑症)

「治療」
やはり、内科的な治療は重要で、血糖値や血圧の正常化に務める必要があります。
眼科では、必要に応じて網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)と呼ばれるレーザー治療を行います。

「診察」
1ヶ月?2ヶ月に1回の定期検査が必要とされています。ただし、他の合併症の有無や血糖の状態により、実際には3?4か月に1回の診察で済む人もたくさんいます。
担当の眼科医の指示に従うようにしましょう。
診察では、医師が眼底を直接のぞいたり、カメラによる撮影、必要に応じて上記の傾向眼底造影検査を行います。また、視力が下がり始めることもあり、少しこまめに視力を測定したり、黄斑症(黄斑浮腫)という病態の確認として、OCT検査を行うようになります。

中期の増殖前網膜症できちんと治療を行う事ができれば、現代の医学では基本的にはほとんど全員の患者様は失明しないで済みます。(超重症例などでの例外はありますが)
治療法があるのに、なぜ失明する人が後を絶たないのでしょう?
それは、残念ながら、定期検査に来てくれない患者様が無数にいらっしゃるからです。

治療をするべき中期では、視力低下などの自覚症状がない場合の方が圧倒的に多いのです。ですから、目が見えにくくなったら病院に行こうと思っている患者様は、症状を自覚して、眼科に行った時には、既に末期で、失明するかしないかといった治療を相談しければならなくなってしまうのです。

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糖尿病網膜症? 初期:単純網膜症

今日は祝日でしたので、入院患者さんをちょっと診察して、あとはお休みです。
子供が習い事をしているのですが、初めてちょっと見学に行ってみました。でも、僕がいると気が散ってしまうみたいなので、すぐに退散・・・。

今日からは、糖尿病の3大合併症の一つ、網膜症について書いて行きます。
糖尿病で血液がドロドロになると、目の奥の光を感じるフィルムの部分、つまり網膜の血管が詰まっていきます。詰まることによっておこされる、眼底出血などの病態を、糖尿病網膜症と言います。

今日はまずは、一番初期の段階から。
糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
単純網膜症(たんじゅうもうまくしょう)

目の血管は無数にあり、糖尿病になったばかりで、少しくらい血管が詰まっても、眼底・網膜には何も変化は起こりませんが、ある程度詰まってくると、目の中に出血などが起こります。

これが初期の網膜症、「単純網膜症」の患者様の眼底写真です。
水色の矢印の部分など、ちらほらと小さな赤い点々(網膜出血)が見えます。緑の矢印が指している、少し黄色っぽい白い斑点は、硬性白斑(こうせいはくはん)といって、血流が悪くなったり、弱くなった血管から漏れ出した脂質などの老廃物の蓄積です。

「症状」
この状態では、ほとんど全ての患者様は自覚症状がありません。視力も良好に保たれます。

「治療」
治療としては、内科的な治療が重要で、血糖値や血圧の正常化に務める必要があります。年齢や糖尿病の種類、妊娠などによって異なりますが、ヘモグロビンA1cという値を6%台に抑えることで、進行を止められたり、ゆっくりにする事が出来ます。(単純網膜症では血糖値や血圧の改善により、網膜の出血が少なくなったり、網膜症が軽快する症例もあるのですが、多くの場合はそう上手くは行きません。血糖が良くなっても、ゆっくりとは進行してしまう症例のほうが多いのです。血糖が良くなったからと言って、眼科の検査を中断することのないように気をつけましょう。)
眼科としては、一部の症例で、止血剤や血管拡張薬などの飲み薬を飲むことがありますが、欧米などの報告でも大きな効果は期待できないとの報告が多く、基本的には眼科的な治療は行わず、経過観察のみを行うことになります。

「診察」
一般的には3か月?半年に1回の定期検査が必要です。血糖値が良好で、安定している場合には1年に1回の診察になる場合もあります。(年齢や重症度、黄斑浮腫などの合併症の有無、血糖値などにより異なります。担当の先生とよく相談してください。)
診察では、眼底検査を行って出血の状態を詳細に把握します。当院では出来るだけ写真も取るようにしています。上の写真でも、どこにいくつの出血があるのか、ぱっと正確に把握することはできないと思います。眼科のカルテは、スケッチのような絵を保存するのですが、全てを正確に再現することはできません。
出血が増えているのか、横ばいなのかをきちんと把握することは非常に重要で、出来るだけ写真のデータとしてきちんと保管する必要があるのです。

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