今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 11件
・緑内障手術 1件
・網膜硝子体手術(茎離断) 4件
(黄斑前膜3件、糖尿病網膜症・硝子体出血1件)
無事に終わりました。
手術の内容ではないのですが、今日手術をした患者様の病態から一つ。
Terrien周辺角膜変性症
角膜(黒目)は眼球に光を入れる窓口としての役割があり、光をよく通すために、正常な角膜は血管もなく透明な臓器です。
角膜が濁ってしまうと、濁った部位は光がとおりにくくなってしまいます。特に角膜の中心部が濁ると、視力が低下して困ってしまうのですが、角膜・黒目の周りに濁りは直接は視力に影響しません。
以前に、特に問題ない角膜のリング状の濁り「老人環:ろうじんかん」に関して記載したことがあるのですが、今日の外来でも、老人環の見た目を心配して来院された女性が1名いらっしゃいました。
ただし、黒目の周りがリング状に濁ってしまう病気は、良性の老人環のみではありません。角膜周辺部潰瘍、Mooren潰瘍など、悪い病気もあるのですが、今日は別の濁りが出てしまった患者様の手術があったので、記載してみます。
70代の女性で、小美玉市医療センターで2,3年前から担当させて頂いています。
はじめてあった時から、下の写真のように、黒目の周りが濁っていたのですが、年単位で振り返ると、徐々に濁りが増えているようです。
病態
写真のように角膜の周辺部がリング状に混濁します。良性の老人環に比べて、不均一で強い混濁を認めます。はじめは黒目の周辺に点状の混濁が始まり、徐々に混濁が強くなります。混濁は脂質が蓄積したり、本来角膜には存在しないはずの血管が侵入したり、正常なコラーゲン組織が破壊されたりして起こります。混濁と同時に角膜の厚みが薄くなって、脆くなっていきます。
重症例では、ちょっとしたケガでも薄くなった場所に穴が開いてしまう事があり、緊急手術が必要になることもあります。
症状
病気自体には強い炎症が起こることはなく、通常の落ち着いた状態では痛みなどはありません。ただし、表面がデコボコするため、キズがつくなどして痛みや炎症が起こることもあります。
余程でないと、角膜の中央までは混濁が進むことはないのですが、混濁部位を中心に角膜にヒキツレ・歪みが生じて、不正乱視とよばれる状態が起こり、視力が低下していきます。
疫学
どの年齢にも、男性にも女性にも発症することがありますが、中高年の女性に発症することが最も多く、多くは両眼性です。
原因
残念ながら正確な原因は不明です。
治療
残念ながら、進行を止めたり混濁を治したりする治療法は、現在の医学では存在しません。
今日の手術は、Terrien周辺角膜変性症の病気自体を治すわけではなく、病気をお持ちの患者様の手術だというだけなのですが、
まず左目の手術を行いました。近年は白内障の手術のキズ口は2mm程度と非常に小さいので、キズ口を縫う必要がないのですが、Terrien周辺角膜変性症ではとにかく角膜が薄いので、多くの場合でキズの縫合が必要になったりと(右写真)、通常の手術に比べて気を使う事が多々あります。続けて、緑内障の手術を行いました。
予想外に?キレイに行う事が出来たので、そのまま続いて右目の手術も。
まず白内障を行いますが、やはりキズ口は縫って補強します。緑矢印の部分は「偽翼状片:ぎよくじょうへん」と呼ばれる病態で、Terrien周辺角膜変性症では時々合併するのですが、偽翼状片が出来ると混濁部が広がり、さらに手術が難しくなります。
こちらの目は、引き続き硝子体手術(黄斑前膜)を行いました。
実は半年ちょっと前から、左目の緑内障も、右目の黄斑前膜も手術をしたほうがいいと思っていたのですが、角膜の混濁と、薄くて弱い所見から、手術で合併症が起こったら嫌だな。とためらっていた患者様です。
結局、視力も視野も悪化傾向であり、「やるしかないだろ。」と決意をして、お勧めしたのですが、終わってみれば、問題なく上手にできました。(もちろん、明日以降の観察が必須ですが。)
これなら、半年前にやってしまった方がよかったのでしょうが、全てが全て、期待通りにはいかないので、難しいのですよね・・・
「白内障、硝子体、緑内障」
他院様で手術不可能と言われた、難症例の手術もお引き受けしていますので、そのようなことがありましたら、是非お問い合わせください。