今日は県内の医院様で十数件の手術を行いました。今日も網膜剥離の手術があって、冬の到来を感じます。
僕は現在のところ、当院以外に7つの医院様で定期的に手術を担当しています。
僕の一番の専門は網膜硝子体手術という眼球の奥の方の手術になり、網膜剥離や糖尿病、眼底出血、黄斑疾患などに対する手術です。眼球の中に入れる器械の大きさが日進月歩で小さくなっていますが、日本で購入できる器械の大きさは以下の4つになります。
・20ゲージ(0.9mm)
・23ゲージ(0.7mm)
・25ゲージ(0.5mm)
・27ゲージ(0.4mm)←今年の9月に発売
日本中には、まだ20Gや23Gの器械で手術をしている医院もあるのですが、僕が出入りする医院は全て25G以上の手術設備を導入して頂いています。
パワーの大きな太い器械に比べて、小さく細いデリケート器械では手術の効率(スピード)が落ちる可能性があるのですが、傷が小さい方が痛みが少なく、合併症など患者さんのリスクが小さくできるのは間違いありません。傷口が大きければ、傷を縫うことが必要になり、術後の痛みに直結しますが、僕はこれまで25Gで手術をして、傷口を縫ったことはただの1回もありません。患者さんの負担を考え、できる限り小さな傷での手術を目指すのが医師としての信念です。
当院では9月の発売直後に27Gを経験し、10月からは全ての網膜硝子体手術で27Gでの手術に移行しました。(25Gは取り扱いがありません。)
27Gでは矢印の先、わずか直径0.4mmの細い器械で手術が可能です。
10月の1ヶ月間で宮井副院長とあわせて40件の硝子体手術がありましたが、複数の先生から「27G、どう?」と質問を頂くので、現状で分かっていることを記載してみます。
(今回は一般の方にはわかりにくい専門用語も多々あります。すみません。)
27ゲージ 硝子体手術 近況報告
・効率
硝子体攝子、カッター含めて、操作性は良好で大きなストレスはありません。
(主に使い捨てのアルコン・マックスグリップ攝子を使っていますが、小さい分とてもファインで、ILMがよく切れます。把持力は25Gより少し弱いです。)
ただし、とにかく細い器械なので眼球内部を掃除する効率が悪く、硝子体切除、出血や薬剤の吸引が遅いです。黄斑前膜や黄斑円孔など15分程度で終わるような手術では平均3?5分程度長くなっています。今後、設定値や器械への慣れで少しは改善すると思いますが、25Gより時間がかかるのは間違いありません。濃厚な硝子体出血の症例では、通常より10分くらい時間がかかったように思います。
患者様にとっては少し時間が長くなるのは負担に感じるかもしれません。ただし手術は早さを望むことがベストなのではありません。安全性、痛み、術後の赤みなどが小さい方ことのほうが重要です。これらは小さい器械での手術のほうが優れていますので、数分ですが手術時間が長くなるのはご了承下さい。
・閉創(傷の閉じ)
傷口の閉じ具合は非常に良好です。25Gでも傷口を縫う必要はありませんでしたが、1日程度のわずかな低眼圧はありました。27Gではまず起こらないだろうと思います。
クロージャーバルブは25Gよりもさらに漏れがないため、術中の眼圧はさらに安定していますが、パーフルオロンを入れる時などは還流液が全く漏れないため、眼圧が高くならないように圧を逃がすように、より注意が必要です。
・耐久性
カッター、イルミネーションともに、眼球を傾けるさいにやや曲がってしまうことがあります。器械台からカッターを手にとる時にちょっとぶつけただけで曲がってしまったり・・・。
剛性が低く強く眼球を傾ける時は曲がってしまうこともあります。最周辺部の処置は圧迫して直視下で操作したほうが良さそうです。(奥目の患者様は曲がりやすい・・・。)
そして、バックフラッシュニードルの先端のシリコンチップはものすごくよく取れます(取れるほうが当たり前というくらい。再滅菌などは期待しないで下さい。)
黄斑円孔での空気置換です。矢印の先にシリコンチップがついているか毎回確認した方がいいです。眼内で外れて迷入しないように気を付ける必要があります。
・付属不足
まだ発売直後なので付属品が少ないようです。一番嫌なのは、トロッカーのみの販売がありません。重症例で4ポートを作成して、シャンデリア照明を使おうとしたら、9万円のトータルパックをもう一つ開けるのでしょうか??
・シリコンオイル
シリコン1000は、VFCを使用して27Gのトロッカーから問題なく注入できました。まだ当院では1例しか経験がありませんが、宮井副院長の症例です。
30代の精神疾患のある患者様、多発裂孔+下方の巨状縁断裂後、時間のたった網膜剥離です。
赤矢印の先が巨状縁断裂です。27Gはカッターの剛性が弱くて、眼球を大きく傾けるのは難しいようです。再周辺部の処置が必要な場合は、写真のように圧迫して直視下での観察が必要です。
総合的な判断から、シリコンオイル置換をすることとなりましたが、今まで25Gで使用していたVFCのパックには、先端に付けるものとして、20G・23G・25Gの針しか含まれていません、注入時は27Gの創口以外にもっと大きな創口を作成するか相談となりました。
これが実際の写真ですが、黄緑の矢印が27Gのトロッカー、水色矢印は25GのVFCです。25GのVFCの先端を27Gのトロッカーにしっかりを押し当てると問題なく入注入できます。(しっかりおしあてないと、少し漏れます。注入圧を40psiの設定で約2分くらいで注入できました。女性の宮井副院長でも軽々入れられます。VFCは本当に便利です。
*未経験ですが、おそらく比重の重いシリコンは27Gでは注入不可と思います。
以上、ひとまず1ヶ月間使用した感想です。
結論としては、少し手術時間が長くなりますが、患者さんの負担を減らそうという気持ちがあれば、27Gでほぼ全ての手術が可能です。付属品が充実していけば数年後には日本でも間違いなくスタンダードな手術になるでしょう。
余談ですが上記のシリコンオイルの症例はかなりの難症例です。術後経過は非常に良好で間違いなく復位を得られそう。年明けにはオイル抜去を予定します。宮井副院長は僕が知っている後輩の眼科医の中では、間違いなくトップの技術力です!これからも一緒に頑張りましょうね[:グッド:]