今年の学会も、多少は耳にしたことがあることばかりで、びっくり驚くような発表はなかったようです。そう簡単に医学は進まないのかな?
いろいろな手術や検査の器械がバージョンアップされ、購買意欲は刺激されましたが、「どうしても欲しい!」というものはなかったです。
ドライアイの目薬に関して、いくつか発表がありましたが、それについて書いてみようかな。
ドライアイ
新しいタイプの点眼薬「ジクアス・ムコスタ」
以前に、ドライアイの治療について書いてみたのですが、
⇒http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=124000
ドライアイの治療は、環境の整備や、目薬、涙点プラグ等があります。
ドライアイの目薬というと、10数年前に発売されて以来、ヒアレインという水色の目薬がとってもよく使われてきました。ヒアルロン酸という成分が主体で、保湿力が高く、化粧水にもよく使用されています。
(最近は、ジェネリック医薬品というのが多くなって、いろいろな名前の目薬が、いろいろな色の容器に入っているので、水色の・・・なんて訳にはいかなくなりましたが。)
軽症?中症の患者様を中心に、ほとんどのドライアイの方では、ヒアレインを代表とする、このヒアルロン酸製剤のみの使用で、症状の改善が得られるようです。ただし、ヒアルロン酸製剤の欠点は、点眼薬をつけた時には潤いが得られますが、1時間とか時間が経過すると、保湿成分が目の表面からなくなってしまい、朝・昼・晩と目薬をつけても、点眼薬の合間、たとえば夕方などに乾きを感じることが出てしまう事があります。
涙点プラグは、常に涙の排出を抑えるため、点眼と点眼の間の乾きを抑える事が出来ましたが、ホコリを洗い流す能力が落ちるなど、問題点もあります。
ドライアイの治療に関しては、長年、目立った進歩がなかったのですが、昨年から新しい点眼薬が発売され、学会などでも臨床経験に関する報告が増えてきました。(ヒアレインから、実に15年ぶりの久々のドライアイ新薬です。)
左が昨年発売された、ジクアス点眼薬
右が今年発売された、ムコスタ点眼薬です。
これまでの点眼薬は、簡単に言うと、「足りないものは、人工の涙で補う。」という概念で、補充した直後は潤いがありますが、時間がたつと、乾いてしまうことが問題でした。
これらの新しいタイプの点眼薬は、「自分の粘液や水分の分泌を増やして、乾きにくくする。」という効果が期待できます。
自分の粘液が増えて、乾くのを抑えるので、涙の動態として、より自然な治療法ですし、点眼薬の効果が切れる時間帯。などの問題をクリアしてくれるようです。
以前も書いたのですが、涙は水分のみで出来ているわけではありません。
⇒http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=123591
油層・水層・ムチン層という3層構造からなり、最も外側の油層が、水分の蒸発を防いでいます。
ムチンは結膜や角膜から分泌される粘液で、角膜のみに比べると、保水力のある粘液が間に存在することで、涙液の蒸発がゆっくりになります。また、表面張力などの影響を受けずに、涙がすき間なく、角膜全体に均一に広がることに役立ちます。
ジクアスや、ムコスタ点眼は、結膜の細胞などに影響して、このムチンの分泌を増加させ、より乾きにくい・涙液の安定した状態を保つことができるようになります。
とてもよい点眼薬で、僕もドライアイの患者様で症状が強い方には、かなり処方が多くなっています。涙液の蒸発亢進型のドライアイの女性にジクアスを出したら、とっても喜ばれたり、先日は、シェ―グレン症候群(涙が出なくなる病気)で、涙点プラグも、点眼薬もいろいろ使ってもキズだらけ。なんて方に、ムコスタを出してみたら、2週間でキレイになってしまった人も経験しました。
ただし、いくつか問題点も。
?ジクアスは少し「しみる」と感じる方が多いようです。
?ムコスタは白く濁った薬で、つけたあとしばらくは、曇った見え方になります。また、もともと胃薬の成分なのですが、点眼後は「苦み」を感じます。
?点眼をすることで、効きすぎてしまって、逆に「涙がうるんでしまって、見にくい」という患者様もいます。
?効果が安定するのに、1日4回とか、6回とか、ある程度の点眼回数が必要です。
?や?の付け心地は、人それぞれなので、実際に試してみるのがいいかと。
「しみる」目薬が気持ちいい。という人もいますし、「しみる」目薬は痛くて嫌だ。という方もいます。なんの治療でも相性がありますよね。
?や?は、ドライアイの中でも、ある程度重症の方で、しっかりと点眼を必要とする患者様の薬だと言えるでしょう。
新薬が出ると、「ドライアイの治療は、全てその薬にしよう」なんていう先生もいますが、軽症で「乾いたときのみ1日1回くらい点眼薬をつけてる。」なんていう人には、ヒアルロン酸製剤のほうがあっているかと思います。
効果が高くて、簡便で、費用が安い。そんな治療が一番いいのですが、
ドライアイの治療は、キズの状態とか、医師の診察のみで決めるわけではなく、
症状の感じ方、点眼薬の付け心地、どこまで治療するかなどの治療への積極性など、個々の患者様で差があるので、そこが難しいところです。僕たちが、1日4回と処方しても、なかなか全員の患者様が4回守ってくれるわけではありませんしね。
症状がどのように残っているか、それをどうしたいのか、いろいろ情報を頂けると、診療が楽になります。