毛様体凝固術

今日の午前は初めての医院様に出張し特殊な手術を担当しました。数名の眼科の先生にも見学頂き、久しぶりに緊張感のある手術でした。来週からは企業と機械の開発の相談があったり、いろいろと新しいことにチャレンジが続いて新鮮な気持ちです。

今晩は逆に、少し古い治療なのですが変わった緑内障治療の話を。
毛様体凝固術(もうようたいぎょうこじゅつ)
緑内障の治療は眼圧を下げて進行を遅らせることですが、眼圧を下げる方法(治療法)として、一般的に点眼薬、レーザー治療、内服薬、そして手術治療があります。
・点眼薬の一部や内服薬は、眼内を循環する房水の産生を抑制し眼圧を下げます。
・レーザー治療(SLT,虹彩切除)や、多くの緑内障手術では、房水の排出を促進させたり、新たな排出路を作成して眼圧を下げます。

重症例では手術で房水の排出路を作成する機会が多くなるのですが、せっかく作った排出路が癒着によって閉じてしまうと再度眼圧が上昇します。近年の医学の進歩はすさまじく、術後成績も上がってきていますし、複数回ダメになった術後に行う新しい術式が開発されてきていますが、どうにもならない難治症例というのも世の中には存在するのです。
毛様体は眼内で房水を産生する器官ですが、毛様体凝固術はその毛様体を冷凍凝固(クライオ)や半導体レーザーで冷凍または熱凝固し、毛様体を弱らせて房水の産生を低下させることで眼圧を下げる治療です。
実はこの治療、冷凍凝固で20年以上、半導体レーザーで10年以上の歴史を持つ、かなり古い術式なのですが、現在も緑内障が失明原因の1位であるように、今の医学でも標準的な緑内障手術では眼圧がコントロールできない症例が存在し、そのような症例に限って現在でも行われているのです。

術式ですが、まず注射による局所麻酔を行い、その後、クライオ(-80°の冷凍凝固)や、半導体レーザー(熱凝固)という器械の先を黒目の周り4mm程度の部位に押し当てて、十秒から2分程度(症例によって異なる)凝固する。という技術としては非常に簡単なものです。しかし、効果の差が非常に大きかったり、合併症が多いことが問題となり一般的な患者さんに行われることはなく、他の治療でどうにもならない超重症例・難治症例のみが適応となっています。

合併症
痛みが強いです。局所麻酔を使用してもある程度の痛みがあります。(痛みで治療続行が不可能になった例は経験がありませんが、全く痛くないという人は少なくて、それなりに痛みがあるという人が大多数です。)
強い炎症が起こります。眼球前方の炎症(虹彩毛様体炎)は必発で、一過性には逆に眼圧が大きく上昇することがあります。炎症が眼球後方に及ぶと脈絡膜剥離や黄斑浮腫などを生じたり、炎症により白内障が進行する症例もあるため視力が低下することもあります。
網膜剥離が非常に稀ですが起こりえます。眼内の組織が炎症によってひきつれる(収縮する)ことで生じますが、通常の網膜剥離が手術でまず治せる時代になってきたのと異なり、緑内障の末期の方は網膜剥離の手術に耐えられない場合もあり対応に苦慮します。
眼球勞(がんきゅうろう)これが毛様体光凝固で一番の問題となる合併症です。治療によって毛様体の機能を落として房水の産生量を低下させる治療ですが、効果が強く出すぎると眼球内部の最低限の圧を保つための房水も産生されなくなり、眼圧がゼロ、眼球が小さくしぼんでしまい失明に至る状態です。
特に③や④が生じた場合は治療によって失明してしまう場合がある治療ですので、基本的には眼圧が高く、他の手術が不可能で、毛様体凝固を行わなければ短期間で必ず失明。というケースのみ適応となっている術式です。