第33回 JSCRS学術総会発表;3焦点眼内レンズ ファインビジョンの混濁症例

今日は東京国際フォーラムで行われた、
33 JSCRS総会で発表を行いました。

Japanese Society of Cataract and Refractive Surgery
日本白内障屈折矯正手術学会の略です。

今回の発表は日本では未認可の多焦点眼内レンズである、FINE VISION ファインビジョン(PhysIOL;ベルギー)がカルシウム沈着により眼内で濁ってしまい、交換した症例の発表を行いました。

 FINE VISIONは特殊な構造で、遠・中・近の3か所にピントを分ける(3焦点)のレンズです。(各々がすごくよく見えるわけではなくて、一つ一つの能力はそれなりに低下しますが、多少のボヤケは気にしないから、メガネなしで生活をしたい。という人のためのレンズです。)

他院様で白内障手術を受けた後、約4年で、上二つの写真のようにレンズが混濁してしまい、当院にて摘出し、右下は新しいレンズを入れた翌日の写真です。
今回はキレイに回復しましたが、レンズ交換はそれなりにリスクをともなうものであり、基本的にはレンズの混濁は望ましいことではありません。
FINE VISION ファインビジョンは親水性の眼内レンズで、摘出したレンズは分析の結果、カルシウム沈着という状態に陥っていることが判明しました。

実は2000年頃にハイドロビューという親水性の眼内レンズに、カルシウム沈着が起こり、日本を含めて世界中でかなりの数のレンズが摘出さることとなった事件がありました。
それ以来、現在日本では疎水性に分類されるレンズしか認可されたものがありません。ただし、世界中では親水性レンズを発売している会社もあり、そのいくつかは、同様にカルシウム沈着の報告が散見されています。
ちょっとあげるだけでも、

oculentis社のLentis:ドイツ製の乱視につよい多焦点、日本ではオーダーメイドのように広告されることが多い。
Bausch Lomb社のAkreos:近年、日本でも話題のEDOFに分類される多焦点レンズ
Rayner社の570H:イギリス製のマルチフォーカル
などがありますが、特に Lentis(レンティス)は、複数のカルシウム沈着の報告から、昨年の9月に世界的に自主回収の通達がありました。
ここで驚くのは、レンティス・Lentisは日本では未認可のレンズであり、僕が調べた限り、日本語でのアナウンスは行われていないようです。
今回のFINE VISION ファインビジョンも日本では未認可のレンズですが、医師の責任のもとで個人輸入されていますので、販売者への分析依頼なども困難でした。
ちなみに僕はもう一例、別にFINE VISION ファインビジョンにカルシウム沈着を起こしている人を担当しています。

親水性レンズに対するカルシウム沈着は、全員が発症するわけではありませんが、糖尿病や腎機能障害、高脂血症、硝子体など他の内眼手術がリスクとなります。
今は糖尿病ではなくても、多くの方は一生を同じ眼内レンズで過ごします。みなさんは、一生涯、10年後、20年後も高脂血症や糖尿病にならないと自信がありますか?
眼内レンズの交換は、最悪、網膜剥離などを起こしうるリスクの高い手術です。親水性レンズはそういうリスクを負ってしまう可能性が否定できません。

未認可のレンズを最先端のように広告される医院が散見されますが、僕はやはり、日本国の高次機関で安全を検証された(認可された)レンズの方が安心だと考えます。(日本で認可されたレンズだから、確実に安全だとも言い切れませんが、個人的な意見としては比較すれば。)

高額な手術費を設定すれば、未認可のレンズはクリニックの経営には有利かもしれません。しかし、未認可の医療器具の使用は、個人輸入した医師の自己責任のもとで行うこととなっています。眼科医の先生方も万が一の場合は、全ての責任を負う覚悟が必要です。
型番が違ってもレンティスや、ファインビジョンを入れた患者さんがいたら、一度は呼び出して確認したり、海外では自主回収があったので、今後も定期的な検診をうけるように。と伝えるべきなのではないでしょうか?

患者さんも患者さんで、安易な広告に飛びつかずに、どういうリスクがあるのか?不具合が起きた場合には誰が責任を持つのか?海外の会社との交渉を医院が手伝ってくれるのか?担当の先生によく説明を求めるべきです。僕は白内障などの簡単な手術では遠方の患者様は極力お断りする主義ですが、インターネット広告で遠方からも手術を勧誘している医院で手術をして、その後の管理に不安はありませんか?

 

明日は石岡市医師会の総会があって講演を依頼されていますが、なんとまだスライド(資料)の準備が全くできていません。60分の講演。今晩は絶対に徹夜ですね・・・。

 

 

緑内障36 患者さん⇔薬局・内科主治医 緑内障連絡票

今週の当院の手術は、主だったものだけでも
白内障手術 32件、網膜硝子体 12件、緑内障手術 3件、眼瞼下垂 6件。緊急手術としても眼球破裂1件、網膜剥離3件。ひどいものは網膜が150°避けているものまで。。。

さぞ忙しい1週間かと思ったら、僕は今週は学校医の仕事が多く、自院での手術は5例のみ。(他院での非常勤手術は30件強ありましたが軽症例です。)
上記手術のほとんどを宮井・渡部副院長に頼っています。
そんな忙しい副院長たちですが、今週は渡部副院長が素敵なものを作ってくれました。
患者さん⇔薬局・内科主治医 緑内障連絡票
緑内障の一部の患者さん(閉塞隅角緑内障)は、風邪薬や睡眠薬、前立腺薬、胃カメラを受ける時の注射薬などで、急激に緑内障が悪化することがあり注意が必要です。とはいっても、実は緑内障の患者さんのうち、本当に投薬に制限が必要な人は1割もいません。
しかし、なかなか自分の緑内障がどんなタイプなのかを分かっている人は少ないものです。当院では以前からできる限り説明書を渡したり、服薬制限や点眼指導などについての説明も行っていたつもりでしたが、時間がたつと多くの方がうやむやになって、「そんなこと言われたっけ??」というケースも少なくありません。度々、調剤薬局から「緑内障の患者さんですが、睡眠薬を処方してもいいですか?」と問い合わせを頂きます。

連絡票には、緑内障のタイプ、投薬制限以外に、眼圧や眼圧の測定値に影響する角膜厚を記載して、1枚を患者さんに。複写の1枚をカルテに保存することになりました。今後の外来で随時お渡ししていく予定です。
患者さんの安全性の向上と、薬局からの問い合わせ、「言われてない。もらってない。」が少なくなるはず??