緑内障29 緑内障のセカンドオピニオンと手術適応

今晩は宮井副院長に勉強会の講師の予定があり(これも緑内障)、手術数を制限したため、僕は夕方から暇でゆっくりとした夜です。

外来が慢性的に混んでいて、予約の患者様でも待ち時間が長くなり申し訳なく思っていますが、傾向としては第5週の数日は殆どの場合で空いているようです。
そして、僕が担当の土曜日の外来は殆どの場合で待ち時間が長くなってしまいます。土曜日は初診の方、普段仕事の若い方、そして遠方からのセカンドオピニオンの方が多くいらっしゃるためです。
以前にも記載したことがありますが、基本的には僕は遠方の患者さんの手術を引き受けるのをためらいます(術後管理まで含めて責任を持ちたいので)。
が、せっかく何時間もかけていらして頂いた方に、何のメリットもなくお帰り頂くことになるもの心苦しく感じています。
今日はせっかくいらっしゃる患者さんが無駄足にならないよう、緑内障のセカンドオピニオンに関して記載してみます。

緑内障29
緑内障のセカンドピニオンと手術適応


①紹介状が必要です。
まず、緑内障のセカンドオピニオンについてですが、ある程度の説明をするにも、絶対に紹介状(診療情報)が必要です。
緑内障の治療方針は、「眼圧がいくつであるか?」よりも、「今の治療法と眼圧で悪化傾向があるか?」「悪化するスピードはどの程度なのか?」によって、より強い治療に進むべきかを検討するからです。
数年分の視野や眼底写真、OCTの結果をみて、はじめて正確な経過が把握できるのです。
患者様によりますが「以前よりも見えなくなっているから手術をしてほしい」「主治医から視野が悪くなっていると言われているから手術をしてほしい」と訴える方が数多くいらっしゃいます。
僕は緑内障手術(特にトラベクレクトミー)はリスクも高く、できる限り受けないほうがよく、「他の方法では失明が防げない時に仕方なく受けるもの」と考えています。
「悪くなっている」と仰る患者さんの話を疑うわけではありませんが、明確に悪化傾向があると判断できる根拠なしには、リスクのある手術を検討することはできないのです。

②眼圧が10以下の患者さん
比較的多いセカンドオピニオンに、「緑内障できちんと通院して、点眼薬もさぼっていないのに、どんどん見えなくなっている。」という可哀想なケースもあります。
現状で眼圧が30とか40と高い状態が続き、視野も悪化傾向であれば、もちろん手術を検討すべきですが、もし眼圧が安定して10以下でいるのに悪化傾向であれば、残念ながらそれは現在の医学の限界であり、セカンドオピニオンで病院や主治医を変えても意味がありません。
緑内障の治療で絶対的な効果が証明されているのは、唯一「眼圧をさげること」ですが、実は眼圧が低くても進行を止められない症例もあるのです。眼圧を下げることで進行を遅らせることはできますが、イコール全く進行しない。という意味ではないのです。
悪化傾向であっても眼圧が10以下でコントロールされているのであれば、主治医の先生は決して無力ではなく、できる限りの治療を頑張っていると思ってあげてください。

③手術適応と考える眼圧
緑内障の手術方法は数種類ありますが、最も重要なトラベクレクトミーに関していうと、僕は15未満で変動が少ない人の手術はまず行いません
(日内変動が大きい人や、毎回測定のたびに眼圧が上下する場合ば別)
先日のセカンドオピニオンで、「キサラタンのみ使用していつも眼圧が11だけど、手術を勧められた。受けていいか?受けるなら山王台で。」というのがあり、当院での手術はお断りしました。
緑内障手術を受けるからには、手術前よりも眼圧が下がらなければ成功とは言えません。かといって、眼圧が5未満では低眼圧という状態で様々な合併症を生じますので、術前眼圧が11の人が手術を受ける場合、術後の眼圧が安定して6~10になる場合のみ成功といえます。眼圧を一桁にする目標を立てることはいいことですが、これを100%の患者さんに達成できるかというと、今の医学では絶対に不可能です。理想と現実は異なります。
術前眼圧が40であれば、6~正常上限の20が通常の目標ですが、最悪30だとしても一応はやってよかったと言えます(もとよりは下がって進行が遅れるので)。つまり眼圧が高い人ほど手術の成功率も高く、適応は広くなります。
世の中には眼圧が10でも手術を勧める先生がいるようですが、僕はその手術を高確率で成功させる自信はありません。
そして、トラベクレクトミーは一度受けてしまうと、後戻りはできません。濾過胞への房水の抜け道(レクトミーホール)を作ってしまうと、抜け道・レクトミーホールからの流出がメインとなってしまい、もともと備わっている隅角からの房水の排出路は機能しなくなってしまうのです。将来的に濾過胞がダメになってしまった時には、本来の隅角からの流出も期待できないため、トラベクレクトミーを受ける前よりも眼圧が高くなってしまうリスクがあるのです。
もし眼圧が10で手術を勧められた場合は、その先生は「術後の眼圧の目標をいくつと設定しているのか?」「術後の眼圧がどの程度の期間に渡って安定する見込みがあるのか?(特に若い人の手術は長期を検討)」「成功率を何パーセントと考えているのか?」を相談して、ご自身が納得いけば手術を受けてもいいでしょう。
ただし、僕が思うにそれはものすごく難しいことで、そして眼圧が15以下で手術を勧めるということは多くの眼科医にとって一般的ではありません。

④まずは主治医の先生と相談を
当院は基本的に全ての患者さんで、「付き添いの方は一緒に診察室に入って下さい」とお願いしています。病気の説明も複数で聞いた方が漏れがありません。点眼薬や食生活の管理がうまくいっているか、送迎が可能かなども確認できますし、緑内障など遺伝傾向がある疾患では簡単に診察をしたりもします。
セカンドオピニオンの場合もご家族一緒に説明しているのですが、「かかりつけの先生には一緒の説明を聞いていますか?」と質問すると、面白いことに多くの場合で「NO」というお返事をもらいます。
マンツーマンのやり取りはどうしても偏りがあったり、理解不良になる原因となります。わざわざ何時間もかけて当院にセカンドオピニオンに来る前に、まずは家族全員でかかりつけの先生に「治療は上手くいっているのか?悪化傾向なら他の方法が考えられるのか?」、相談をしてみては如何でしょうか?

緑内障28 iStent? (アイステント) 最新の白内障併用緑内障手術(日本初認定)

今日は手術が早く終わり、久しぶりに緑内障の新しい話題を。
眼科専門医という資格はありますが、実は眼科医が「私は緑内障の専門」とか「角膜の」「網膜の専門」とか名乗るのは本当にそういう資格があるわけではなく、その医者が自分で勝手に名乗っているだけで、緑内障手術を1件も行っていない先生が緑内障専門と名乗っても一応は問題ないのです。
僕は基本的になんでもこなす方のオールラウンドタイプですが、自分では網膜硝子体手術を一番の専門として名乗っています。決して緑内障の専門科とは名乗っていないのですが、年々緑内障手術の紹介が増えてしまい、非常勤手術も合わせると年に約200件の緑内障手術をしているようで、茨城県ではいつの間にか1番多くなってしまいました。
緑内障は自覚症状に乏しく、通院が途切れやすいことでも有名ですが、当院の通院継続率の高さを学会発表した経緯から、今年は大手製薬会社さんの緑内障管理のパッケージ管理というパンフレットの作成で特許を取らせて頂いたりもしました。(このパンフレットが全国に浸透して、ベースライン眼圧を測定しない医者が激減することを祈っています)
「あれ?いつの間にか緑内障も専門に?」と自分でも不思議に思っているのですが、本日、新しい緑内障手術の正式な認定証を日本で一番初めに頂く事ができたようなので、報告してみます。
(iStentを国内で使用可能にするために臨床治験などに尽力頂いた評議員の5名の先生方を除いて、正規の講習を受けた中で1番目になります。)

iStent (アイステント)
緑内障という病気は不可逆性で、失った視野・視機能を回復する方法がありません。現在の医学では点眼薬、レーザー、手術などによる治療で眼圧を下げることで進行を抑制することが治療の目標になります。
日本ではまずは点眼薬を使用して眼圧を下げることが最も多く行われていますが、多数の点眼薬を使用しても眼圧の下がりが悪い場合や、病状の進行が止められない場合、副作用で点眼薬が続けられない場合などには手術による治療が行われます。
緑内障手術にもいろいろな方法がありますが、一般的なものは以前のブログを参照ください。
緑内障ブログ(隅角形成、エクスプレス、バルベルトなど)
血管新生緑内障のブログ(通常のトラベクレクトミーはこちらに)

今回新たに国内で承認された手術は、iStent(アイステント)というチタン製のステント(筒)を、房水の主流出路であるシュレム管に突き刺して、房水の排出を増加させ眼圧を下げる手術です。

直径わずか1mmのステントを、下図の赤矢印のように隅角(房水の出口)に突き刺す手術になります。

トラベクレクトミーほどの眼圧下降効果はなく、基本的には緑内障で失明リスクが差し迫った患者さんのための手術ではありません。緑内障で加療中の人が白内障手術を受けるときに併用して、術後に点眼薬を減量できたり、上手くいけば点眼薬が不要となることを目標とする手術です。
手術適応や特徴などは次回のブログで記載します。

眼科医の先生にもブログを見て頂く事が多いようなので、認定までの具体的なスケジュールも書いておきます。
3月25日に国内承認。4月9日の日眼総会後に初回講習会(今後も適宜開催予定;詳しくはグラウコス社に)。その後4月13日、自院にてグラウコス社の担当者とウェットラボ(ハンズオン)。4月14日に初回手術1例。17日に1例。19日に2例。本日26日1例。(全て国内の担当者立ち合い。)
本日アメリカからグラウコス社の専任アドバイザーがきて(今日はMark.Mさん)、実際に手術室で手術手技に問題がないことを確認して頂き、晴れて認定証がもらえました。

緑内障27 手術動画 エクスプレスシャント トラベクレクトミー

当院は、白内障手術(特に乱視矯正)や、網膜硝子体手術を一番のメインとしてやってきたのですが、最近、難症例の緑内障の患者様の手術の紹介が急激なペースで増えてきています。
遠方の患者様からの問い合わせもかなり多くなってきており(特にエクスプレスに関して)、白内障に続いて緑内障手術の動画もYOU TUBEにアップしてみることにします。

緑内障手術動画 (白内障同時手術)
エクスプレスシャント トラベクレクトミー

手術動画?(視聴クリック)
手術動画?(視聴クリック)

?は先週、ご開業医の先生より紹介頂いた患者様です。
点眼薬を4成分、内服薬最大量、点滴まで行っても眼圧が40mmHgを超える極度の重症例の手術です。白内障もあり同時に手術をしました。
(専門的にはおそらく、secondary glaucomaの症例)
ビデオの途中の9分?11分頃に、何もせずに動かない時間は、マイトマイシンという癒着防止薬をしみこませている状態です。
通常、緑内障手術のみであれば15分程度、白内障も一緒だと20分程度の手術ですが、再手術例などで以前の傷口が癒着している場合などは時間が延びることがあります。
?は今週の手術で、やはり点眼薬を4種類使っても眼圧が30を超える症例で紹介して頂きました。サンピロという点眼薬を使っていた患者様は、手術中に瞳孔が開かずに(小瞳孔)、白内障手術が難しくなる傾向があります。

当院のトラべクレクトミーの術後成績は非常に良好で、術後に緑内障の点眼薬の再開が必要になる患者様は殆どおらず、手術の効果だけで、正常範囲内の眼圧を保てている患者様ばかりです。
当院の成績が良好な理由として、手術手技のレベル以外に個人的には以下の2つを考えています。
?ニードリング
癒着が進む症例では、躊躇なくニードリングを行っています。薬剤に頼らず物理的に癒着を剥離し、再度、房水の流れ道を作成します。(術後早期の処置は保険請求・コストなどはとっていません。)
?適切なレーザー切糸
眼圧の推移や傷の癒着をみながら、可能な限り最適な時期に、傷を縫った糸を切る処置(レーザースーチャライシス)を行います。この時期が遅すぎると眼圧が高くなり、早すぎると術後に極端な低眼圧になってしまいます。

最近、遠方の患者様より、電話などで手術に関する質問を受けることが多くなっていますが、緑内障手術に関する当院の基本的な考えを記載します。
・術後の管理を安心してお任せできる先生からの紹介がない場合、遠方の患者様の手術はお断りしています。
緑内障の手術は、白内障と異なり、手術のみで完結するわけではありません。入念な長期間の術後管理によって、濾過胞を育てていく手術です。術後もきちんと対応させて頂けることが手術を引き受ける大前提です。
・できる限り入院での手術をお勧めします。
眼圧の推移を朝晩評価できたり、レーザー切糸や眼球マッサージなどの術後処置を最適な時間に行うことができるからです。

ビデオ?の症例です。
眼圧が非常に高く、角膜(黒目)が白濁しています。
手術前の白目(結膜・強膜)の状態です。
手術翌日、眼圧8
術後3日、眼圧16→レーザー切糸
術後10日、眼圧6と安定。もう大丈夫。
レーザー切糸を行った、術後3日目は日曜日です。
日帰り手術では、夜間や日曜の処置はなかなか困難です。

ビデオ?の症例です。
術後数時間の写真です。
この方は、もう片方の目が失明しており、長時間の眼帯は可哀想です。
術後4時間程度ですぐに眼帯を外すことができました。
これも入院だからできることです。
術後経過も良好で、現在術後3日で眼圧8mmHgで週明けに退院予定です。

緑内障26 病状説明と治療継続

今週末は娘の誕生日で、オンコールを宮井副院長にお願いして、
ゆっくりと過ごさせて頂きました。

緑内障26 病状説明と治療継続
当院では、視野検査の結果や、病状説明書などを適宜渡すようにしています。
というのも、緑内障って、日本の失明の原因の第一位なのですが、その大きな原因として、治療の脱落者が非常に多いことがあるからです。
つまり、「出された薬を付けてくれない人」「途中で通院をやめてしまう人」がとっても多いのですよね。
多くの報告があり、良いもの悪いものがありますが、治療開始1年で20%から、ひどいものでは約半数50%の患者さんが脱落した。なんていう発表も耳にします。
・痛くもない。
・痒くもない。
・重症になるまで、本人は視野がかけているのがわからない。
・薬を付けても特に治るというものでもない。
・病院で「変わりない」といわれるけど、何のこと?
という病気なので、途中で治療が嫌になってしまう方がでるのも、理解できなくはありません。

そんな中で、最近ちょっと調べてみたら、当院は診断後の2年程度の期間で見ると、なんと98%の患者さんが通院を続けてくれているということが判明しました。とっても優秀な患者さんだらけのクリニックなのです!(開院後4年弱なので、まだまだ歴史は浅いですが・・・。)
暗点を自覚してもらったり、説明文を作ったり、重症で受診がしばらく途切れている人には電話で通院を促したり。しっかり管理のできる落ち着いている人はできるだけ、通院間隔を延ばして通院を楽にしたり。
こちらで工夫をしていることも多々ありますが、実際に頑張ってくれているのは患者さん自身です。本当にありがたいことです。

ただ、開院直後や、それ以前の病院勤務からお付きあい頂いている患者さんは、そろそろ僕の顔にも飽き飽きしているかな?通院が途切れてしまうのではないかな?と、たまに不安に思っています。
皆さんに渡している視野の結果ですが、単に眼圧の数字だけ書いてあるだけでは味気ないでしょうか?

最近、我が家では消しゴム判子というのが流行っていて、妻や子供たちが、せっせと消しゴムを削って、印鑑を作っているようです。

ちょっと覗いてみたら、結構上手な出来栄えです。
もしかして、眼科の作れる?と聞いてみると、

「栗メガネ判子」 なかなか良いのでは?


視野検査の結果の、矢印のところに押してみました。

「落ち着いています判子」 これを押す人だらけになったら最高です。
白黒の印刷物に色が入るだけで、少し華やかな印象にもなりますよね?
(ちなみに、お相撲さんの絵を入れてほしいとは頼んでいないのですが・・・。)

それにしても、通院継続率が本当に良好です。
これについては、10月の日本臨床眼科学会で発表してみることにしてみます。
宮井副院長には、当院の得意とする黄斑浮腫について発表してもらうことになりました。
1人体制の時は、忙しすぎて学会発表の機会がとりにくかったのですが、2人になって診療以外の分野でも頑張っていけそうです!

緑内障25 最新手術 バルベルトチューブシャント?

今日は白内障手術を8件、夕方は県内の他院様にて硝子体手術のお手伝いでした。
手術は問題なく無事に終わりましたが、今日は久しぶりに助手なしでの手術になりました。数年前は、助手なしで1人で手術をすることが多かったのですが、現在は井上先生や、その他沢山の先生に代わる代わる来て頂いたり、ナースにも助手をしてもらう事もありますが、みんな気配りのできる人ばかりなので、僕は手術に集中できて助かっています。久しぶりに1人でやってみると、ありがたさを再確認できます。支えて頂き、本当にありがとうございます。

さて、昨日バルベルトチューブシャント?を記載しましたが、さっそくコメント欄で質問を受けたので、そのあたりについて、書いてみようと。
緑内障25 最新手術
バルベルトチューブシャント?

以前も記載しましたが、この春・4月から緑内障手術で、チューブシャントという術式や、手術に使用する物品の費用などが、保険診療内で行う事が出来るようになりました。
バルベルトが4月。エクスプレスが6月に発売され、今までは自費で輸入して頂いかなくては行う事が出来なかった医療が、保険診療で出来るようになったことは喜ばしいことです。

ただし、新しい手術方法には、それなりに不安定な要素もあり、飛びつけばいいというものではありません。
現在のところ、当院で行ったチューブシャントは全例で大きな合併症もなく、眼圧の経過も良好ですが、5年後、10年後にどういう経過となるかは、今後もしっかりとした観察が必要です。

エクスプレスシャントは、基本的に通常のトラベクレクトミーを簡易化・安定化させたようなもので、もしも眼圧が上昇しても、通常の手術に乗り換えることは、難しいことではありません。基本的には、初回の緑内障手術(トラベクレクトミー)に対して、行われることが多くなります。

では、バルベルト チューブシャントはどうかというと、バルベルトは基本的には、他の緑内障手術を複数回行ったうえで、それでもどうにも眼圧の安定を得られない、難症例・超重症例に行うための手術方法と考えられています。

トラベクレクトミーを繰り返して行った人は、黒目・角膜の近くの結膜で、ブレブ(房水の貯留池)を作ることが困難になります。そんな時に、バルベルトチューブの中を通して、眼球の後方に水を排出させるという方法ですが、大きく切ったり縫ったりすることが必要になり、一度バルベルトを縫いつけた場所は癒着がひどく、追加の手術を行う事が困難になります。

また、通常のトラベクレクトミーでつくられるブレブは、黒目・角膜のすぐ上などにプックリと出来るため、水がきちんと排出されているかなどを、診察で簡単に確認することができます。もしも、ブレブに癒着が起こっても、ニードリングという処置で癒着を剥がすことも出来ます。

通常のトラベクレクトミーでつくられる、ブレブのイメージと写真です。

一方、バルベルト手術を受けた人の診察の写真です。、

左の青矢印の部分を拡大したのが、右の写真ですが、ピンク矢印の先に眼内に差し込まれたチューブの一部は見えるものの、

イメージのように、水が目の奥の方に流れて溜まっていく様子は、診察では調べることができないのです。なので、どの程度、水の貯留池ができているのか、癒着が進んでいるのかどうかなど、詳細を把握することが困難なのです。

少し難しい内容となってしまいましたが、まとめとしては、バルベルトチューブシャントの術式は、他の緑内障手術を行っても上手くいかない場合に、他の方法がないので、仕方なく行う最終手段。といった意味合いの強い手術になります。
(現時点では、バルベルト手術を行った場合、全例で定期的な経過観察を行い、経過報告を厚生省に提出することが義務付けられています。)

医学の進歩とともに、新しい手術方法がどんどん増えています。緑内障の手術と言っても、何種類もあるのですが、個々の症例に対して最適と思われる手術方法を提案・実施することが、僕たちの責務です。

緑内障24 最新手術 バルベルトチューブシャント?

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・白内障手術 8件
・眼窩脂肪ヘルニア(脂肪脱)切除  2件
みなさん無事に終わりました。
今日はいつも助手に来ていただく先生がお休みで、大先輩の先生に助手に来て頂きました。緊張しましたが「上手」と褒めて頂き、とても嬉しかったです。今後も「人に見て頂いて恥ずかしくない手術」ができるよう、もっともっと精進します。

緑内障24 最新手術 バルベルトチューブシャント?

緑内障の再手術が必要になった場合、ブレブという房水の貯留池を作るための結膜などに癒着や萎縮が起こっているため、同じ場所での手術ではキレイなブレブが作りにくく、難しい。といったことを、先日のブログで記載しました。
なので、2回目の手術などでは、場所を少しずらして手術をします。例えば1回目の手術が黒目(角膜)の右上の方であれば、2回目の手術は黒目の左上の方にブレブを作ったりします。しかし、何度も手術を繰り返して、癒着をしてしまう人では、黒目の周りが癒着だらけになってしまって、ブレブの作り場所に困ってしまいます。

黒目・角膜のすぐ近くの結膜に癒着や萎縮があると、上のイメージ図ような場所にブレブを作成することができなくなってしまうのです。

そんな時に、水の貯留池・ブレブを黒目・角膜の周りではなく、もっと目の奥の方に作ることがあります。そんな時に使用するのが、バルベルトチューブシャントになります。人工のチューブを目に縫いつけて、離れた場所に水を流す術式です。

イメージではこんな感じ。黒目から後ろ側に離れた場所にブレブ・水の貯留池を作ります。

では、実際の手術の例で。
2ヶ月くらい前の手術ですが、患者様はサルコイドーシスというぶどう膜炎が原因で緑内障となり、10年くらい前から眼科で治療をしています。これまで大学病院での手術歴もあり、両眼で7回程度の手術を繰り返し受けていますが、眼圧が上昇してしまいます。

まず、仰向けに寝て、消毒と麻酔の注射をします。
次に、結膜を一度剥がして、バルベルトチューブを入れるポケットを作ります。


縫いつけるバルベルトチューブはとても大きいので、かなり大きなキズを作る必要があります。


これがバルベルトチューブですが、左側のチューブの先端を前房とよばれる角膜の後ろ側に挿入します。チューブの中を矢印のように水が流れて、目の奥の方に縫いつけた、右側のプレートから水が奥の方に広がる構造です。



結膜を剥がしてできたポケットにバルベルトを挿入します。大きいですよね?実はバルベルトにも3種類の形があるのですが、これよりももっと大きなものもあるのですよね。
右の写真はポケットにいれて、動かないように白目・強膜に縫いつけているところです。水色矢印のさきが水が漏れ出すプレート部。黄緑の矢印の先が水が流れるチューブになります(中に血液があり赤く見えます)。
このチューブがむき出しだと、チューブがズレたり、感染したりしやすいので・・・、


白目・強膜の一部にナイフで切り込みを入れて、めくりあげ、チューブを包み込みように縫いつけて固定します。チューブの先端は、黒目・角膜と白目・強膜の間くらいから、眼球の内部に差し込まれます。
イメージではこんな感じに。

最後にはじめに剥がした結膜を、元通りに縫いつけて手術終了です。

最終的には、チューブの中を水が流れて、通常の緑内障手術・トラベクレクトミーよりも、水の貯留池・ブレブが眼球後方にできます。水が目の外に流れる分、内圧が低下し、眼圧が下がる仕組みです。

局所麻酔で40分程度の手術ですが、バルベルトには3つのタイプがあり、手術方式も若干の違いがあります。どちらかというと、眼科の中では大きな範囲を切ったり縫ったりする手術ですので、手術自体は多少の痛みがあります。痛みに弱い方は、セデーション(少し眠くなる処置)がいいかもしれません。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

緑内障23 最新手術 バルベルトチューブシャント?

今日は直前に手術キャンセルがあり、少しヒマかと思っていたら、
網膜剥離や角膜潰瘍、黄斑円孔などなど、緊急や準緊急の対応が必要な初診がゾロゾロ。疲れた・・・。
午後の手術は、
・白内障手術 11件
・翼状片手術(遊離弁移植) 1件
・網膜硝子体手術(茎離断)2件
 (裂孔原生網膜全剥離・黄斑前膜)
無事に終わってよかったです。

網膜剥離はお盆のころから中心部も見えていないようで、全部剥がれていました・・・。

今日は、緑内障の手術について。
緑内障23 最新手術
バルベルトチューブシャント?
緑内障手術の中で、最も広く行われているのは、トラベクレクトミーという術式で、眼球に穴を開けて、中のお水(房水)を外に流すことで内圧を下げよう。というものです。

一般的な術式は以下を参照下さい。
トラベクレクトミー?血管新生緑内障
トラベクレクトミー?
エクスプレスシャントを使用したトラベクレクトミーはこちら。


一般的なトラベクレクトミーのイメージ図ですが、赤の矢印が房水を目の外に流すための抜け道。青は目の外の水の貯留部(ブレブ)です。

この水の貯留池:ブレブは、結膜という粘膜でできた袋です。(イメージ図では黄色の部分)

一か月前にエクスプレスシャントでブレブを作成した血管新生緑内障の、50代の男性が、ちょうど本日いらっしゃいました。黄色矢印がブレブになり、内部に房水が溜まっています。水が入っている分、結膜がプックリと膨らんでいるのですが分かりますか?細い光を当ててみると、緑矢印の下側半分(角膜・黒目)と、上側半分(結膜のブレブ)でくびれがあり、上半分が膨らんでいるのが分かります。手術前は点眼薬・内服薬を沢山使用して眼圧27mmHgと高値でしたが、本日は8mmHgと良好な経過です。
この方は当院で初めて手術をした患者様で、キレイなブレブができている症例です。


これは他院様で2回の手術後に、当院に転院された患者様ですが、当院で1年ちょっと前に再手術を行いました。左が手術後の写真で、しばらくは眼圧も10程度で良好でしたが、右は最近の写真です。ブレブを作っていた結膜が白く萎縮したり、キズが癒着を起こして、ブレブが小さくなり、水の溜まる体積が少なくなったため眼圧が上昇してきています(現在:点眼薬なしで20を超えてきた)。この患者様は明後日、ニードリングという処置を行う予定です。
明後日のニードリングで、上手く眼圧が下がるといいのですが、もしもそれでも眼圧の低下を得られない場合には、再度、緑内障手術をやり直して、ブレブを作成するしかありません。しかし、白く萎縮してしまった結膜や、強く癒着を起こしてしまった結膜では、キレイなブレブが作る可能性は非常に低くなります。

通常は再手術では、前回のキズ口を避けて、新しい場所にブレブを作成することを試みるのですが、上記の患者様のように、何度も緑内障手術を行った患者様で、キズ口が何か所もある場合、新しいキズ口を作ることがとても難しくなります。(キレイな粘膜が残っている場所がない。)
こんな時に行う手術が、バルベルトチューブシャントになります。
次回は、実際の術式などについて書いてみますね。

緑内障22 最新手術 エクスプレスシャント トラベクレクトミー?

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・白内障手術 8件
・緑内障手術 2件
・網膜症硝子体手術(茎離断)1件
最後の硝子体は、申し訳ありませんが術後再出血で再手術となった方です。
頑張りましたが、今度は大丈夫かな?と、明日の診察がドキドキです。

緑内障22 最新手術 エクスプレスシャント トラベクレクトミー?
実際の手術の方法を、先週の水曜日に手術となった、70代女性の例で記載してみます。
もともと他院様で長い間、緑内障の点眼薬を使用していたようです。それでも徐々に悪化していると5月に来院。4つの成分の薬を使用していましたが、両眼ともに眼圧は20mmHg前後と高値です。ゴールドマンでの動的視野も残念ながら進行期でした。進行期の緑内障では、眼圧は10以下とかできるだけ低いほどいいのですが、一般的には20を超えるようでは、将来的には失明が危惧されます。

7月25日に両眼の手術を施行させて頂きました。
右眼は少し異なる病態で隅角癒着解離(GSL)を施行し、本日も経過良好です。
左眼にエクスプレスシャントを施行したので、それを記載してみたいと。

白内障を合併しているので同時手術。まずは白内障のレンズを交換してしまいます。

通常のトラベクレクトミーでは、術後の乱視が大きく出るので、難しかったのですが、エクスプレスシャントはキズ口が小さく、術後の乱視変動が少ないので、トーリックレンズを使用が可能です。出来る限り乱視を減らし、裸眼視力の向上を期待できます(赤矢印の先の点々が乱視の軸)。

黒目(角膜)の上側、写真では黒目の下側に糸を縫いつけて(緑矢印)、目が下を向くように(写真では上側)引っ張ると、黒目の上側の結膜や白目(強膜)がよく見えるようになります(青矢印)。

強膜の表面に覆っている結膜に切り込みを入れると、少し出血するので、高圧電流の器械で焼いて止血をします。

この方は、心臓の治療でワーファリンという血液をサラサラにする薬を飲んでいるので、それでも多少は出血します。

強膜に切り込みをいれて、黒目(角膜)側にめくり上げるように切っていきます。これを、強膜フラップと呼ぶのですが、エクスプレスシャントが術後にずれたり、柔らかい結膜を破いたりするのを防ぐために、強膜フラップでエクスプレスを覆うようにします。

通常のトラベクレクトミーで作成するフラップよりも小さなもので大丈夫なので、乱視なども小さくなります。(僕は、将来的なニードリングのしやすさなどを考えて、エクスプレスでは少し厚みが薄めのフラップを作成しています。)

せっかく作った、水の流れ路(バイパス)のキズ口の癒着が進むと、手術の効果が無くなってしまうので、癒着防止効果を持つ抗がん薬を浸して、癒着を防止します。

(今回はマイトマイシンCを2分;症例によって異なります。)

この白目の強膜フラップは、あとで針と糸で縫って、元に戻すのですが、僕はこの時点で縫合の糸をかけてしまいます。

(エクスプレスシャントを刺してからだと、眼圧が低くなり縫いにくいので、先に糸をかけておくと安全です。)
写真でフラップの右下と左下を縫って、細ーい糸があるのですが、見えますか??

本来は、ここで強膜の一部、線維柱帯、虹彩(茶目)の一部を切除して、水の通り道を確保するのですが、エクスプレスシャントでは、これらの手技を全て省いて、ただただエクスプレスを突き刺すだけで終わってしまいます。
切ったり縫ったりの作業が減るので、その分、手術での出血のリスクが下がったり、術後の炎症も少なくなり、手術が安全になります。

実際には、まず針をプスッと刺して、穴を開けます。(25Gの針)

次に、その穴にエクスプレスを挿入します。

小さくてちょっと分かりにくいですが、赤矢印の部分に左のエクスプレスがついています。

挿入完了!

今まで、出血にビクビクしながら行っていた作業が、なんと10秒で終わってしまいます。医学の進歩はすごい[:グッド:]

その後、素早く、先ほど準備していた、強膜フラップの縫いかけの糸を2か所、キュッ、キュッと縛って、強膜フラップでエクスプレスを覆い隠します。

(以前の手術では、糸を縫っている間に、目から水が漏れ出して、一時ペコペコになったりすることが多々ありましたが、今回の術式では、そんなことは一切起こりません。もちろん乱視用トーリックレンズも殆どずれません。)

最後に、一番最初に剥がした、結膜を連続縫合で元に戻して、終了です(10-0ナイロン糸)。

終了時ですが、矢印のあたりが、プックリと膨らんでいるのが分かりますか?

目の中からエクスプレスシャントを通って流れ出た水が、結膜の下の貯留池(ブレブ)に溜まっている状態です。

白内障手術を含めて、だいたい15分?20分ちょっとの手術です。

気になる結果は、
7月26日 眼圧 6mmHg
7月27日 眼圧 20mmHg⇒レーザースーチャライシスを一糸
7月28日 眼圧 5mmHg
7月29日 眼圧 5mmHg
7月30日 眼圧 6mmHg
(せっかく入院しているので、朝も昼も夜も検査をして、念入りに観察いますが、朝の結果だけupしています。)
ここまでバッチリの経過で明日退院です!

青矢印の先がエクスプレスです。

緑内障21 最新手術 エクスプレスシャント トラベクレクトミー?

土曜日は通常は午前外来だけなのですが、ちょっと早めの手術が望ましい人が多く、午後は手術日になりました。スタッフの皆さん、ご協力ありがとう。
・白内障手術 3件(加齢黄斑変性注射同時2件)
・血管新生緑内障ニードリング 1件
・網膜硝子体手術(茎離断)4件 (全て糖尿病黄斑浮腫)
無事に終わりました。

さて、今日は緑内障手術から新しい話題を。
緑内障最新手術 
エクスプレスシャント トラベクレクトミー?

緑内障は目の中を流れ、眼球を膨らませている水が、神経を圧迫して見えなくなっていく病気です。内部の水の量を減らして、圧力を低下させることで、進行を遅らせる事が出来ますが、多くの症例は点眼薬による治療でコントロールが可能です。点眼薬で目標とする眼圧まで低下させることができない場合には、レーザーや手術を行うのですが、
いくつかの手術方法のうち、最も強力で、最も多く行われている方法が、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)になります。一般的なトラベクレクトミーの方法に関しては、以下のブログを参照下さい。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=129061

手術自体は、比較的簡単なトラベクレクトミーですが、手術後のキズ口の癒着が早い・遅いなどの個人差が大きく、術後管理がとても大事であることを以前に記載しました。
⇒トラベクレクトミー後の術後管理

術後の問題点としては、主に以下の二つがあります。
・作成した水の抜け道が癒着してしまい、水が流れない⇒眼圧が高い
・抜け道が大きすぎて、水がじゃじゃ漏れ⇒低眼圧

これまでは、水の抜け道の作成は、眼科医の手によって、切ったり縫ったりと、手作業で行われてきましたが、人工のバルブやチューブを使用することで、出ていく水の量を一定化し、眼圧を安定して低下させる方法を、チューブシャント手術と言います。
欧米では、チューブシャント手術は以前より広く用いられてきましたが、日本の保険診療では認められずに、これまでは自分たちで勝手にバルブやチューブを輸入してこっそり使っていました。
今回、日本でもとうとう、今年の4月から保険診療でチューブシャント手術を行う事が認可されたのです!!(嬉しい!!)


一般的なトラベクレクトミーのイメージ図ですが、赤の矢印が房水を目の外に流す抜け道です。青が目の外の水の貯留部(ブレブ)です。
これまでは、この赤矢印のように水を流すためには、下の写真のように、白目(強膜)の組織の一部や、線維柱帯、茶目(虹彩・瞳孔)の一部をメスやハサミで切除する必要があり、全症例で大なり小なり必ず出血が起こりました。

エクスプレスシャントは、上のような組織の切除を必要とせず、白目(強膜)から目の中に向けて、下のようなバルブをプスッと刺すだけで、水の抜け道が形成されます。

エクスプレスシャント利点は沢山あります。
?出血が少ないこと
?手術手技が省略され、手術時間が短くなること
?キズが小さいので、炎症が少ないこと
?キズが小さいので、キズを縫う縫う範囲や数が小さく、手術にともなう乱視が出にくいこと
?、??により視力が安定・回復するまでの時間が短いこと

などなどありますが、なにより、一番重要な利点は、
?流れる水の量が一定化し、眼圧が下がり過ぎたりする合併症が減少することです。

一部のベテランの先生で「エクスプレスなんて使わなくても、きちんと切って、きちんと縫えば、大丈夫。」とおっしゃる方もいるのですが、僕が思うには、どんなに上手な人が丁寧に手術をしても、人間の手作業・手縫いで作られてたキズ口を流れる水の量に比べれば、人工的に作られたバルブの中を流れる水の方が、流量が一定化するに違いないと。

エクスプレスは6月18日に発売され、当院でもすでに3件の手術が済みましたが、みなさん安定化も早く、今のところとても良好な経過となっています。術後の管理で行う処置の回数が少なく、退院が早いのも特徴です。
8月も3件、9月もすでに予定が入っていますが、手術がとても楽しみです。
次回は、実際の手術方法に関して書いてみたいと思います。

では、今日も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

緑内障? GSL(隅角癒着解離術)

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・治療的角膜切除術 1件(帯状角膜変性症治療)
・白内障手術 7件
無事に終わりました。

今日は緑内障の治療の話を進めてみます。
緑内障? GSL
隅角癒着解離術(Goniosynechialysis)

緑内障?の分類で記載したのですが、実は一口に緑内障と言っても、いろいろと分類があります。閉塞隅角緑内障はあまり多くない少数派の病態なのですが、眼圧が高めになったりして、重症の例もそれなりに多いのが嫌なところです。

目の中を循環する水(房水)の出口を隅角と呼びますが、右のイラストは開放隅角といって房水の出口が広く保たれるタイプですが、赤矢印の方向へ水が流れ、最中的に黄色のカッコでくくった構造(隅角)から目の外に流れていきます。
左が、閉塞隅角緑内障のイラストですが、茶目(瞳孔・虹彩)が前の方に移動し、角膜とくっついていることで、黄色のカッコでくくった隅角が塞がれてしまっています。これでは、房水の排泄が悪くなって眼圧が上がってしまいます。
隅角が閉塞したり、癒着をしてしまう原因には、遠視などの生まれ持った体質や、加齢による白内障、ぶどう膜炎での癒着などがあります。

今回の症例は、5月1日に「両眼見えない」と初診になった77歳の男性です。
右目は、末期の黄斑変性症・硝子体出血で、視力は光覚弁とほとんど見えません。
そして左目は、眼圧が30mmHgと高く、視力は0.4、残念ながら視野は末期です。
中心部の視野がごくわずか。
初めて診察した瞬間から、「どうにも・・・困った。」という症例です。

これは、目に特殊なレンズをあてて、隅角をのぞく検査(隅角検査)の結果ですが、専門的で分かりにくいと思いますが、癒着がひどく水の出口がハッキリ見えません。(以前にぶどう膜炎の既往があるようです。)
ひとまず一気に3種類の点眼薬を処方し、1週間後に再診となりましたが眼圧は20mmHgといまいち。閉塞隅角では、基本的に出口が塞がれているので、目薬では眼圧が下がりにくい場合があります。末期の緑内障では出来れば10mmHgくらいの眼圧がいいのですよね。
右目も手術が必要なので、どうせ入院するなら。と、5月12日に両眼手術となりました。

目薬の麻酔をして、消毒をして、簡単な注射の麻酔をします。

白内障手術を同時に行うと、水晶体の厚みの分(人工のレンズの方が薄い)、虹彩(茶目)が後ろ側に移動するため、隅角が広くなります。今回も同時手術で。

こんなときでも、LRIをやって乱視を減らします!


ちょっと斜めに傾いたレンズを黒目にのせて、上からのぞくと、隅角が観察できます。緑矢印は、隅角を押し広げたり、切り開いたりする特殊な針です。

目の下側、写真では上側の隅角ですが、針で手前側に広げるように切開します。

切り開いた部分は、多少出血するのですが、矢印の部分に赤い出血があるのが分かりますか?(出血は手術中に出来るだけ止めますが、キレイになるまでに数日間かかることもあります。)

白内障手術もいれて、だいたいここまでで10分くらいの治療です。
(この方は、反対目の硝子体手術の方が大変でした・・・。)

先週の土曜日、6月16日に経過観察でいらして頂きましたが、

左が治療後、右が初診時の隅角の写真です。緑の矢印の長さだけ、隅角の癒着が剥がされ、水の出口の構造がハッキリと見えるようになっています。
眼球の全周、全ての範囲の癒着を剥がすわけではなく、僕は安全にできる下方の癒着を主に剥がすようにしています。

同じ人の写真ですが、赤の部分は癒着を剥がした場所、黄色はとくに何もしていない癒着したままの隅角です。
ちょっと専門的な内容になってしまいましたが、わかりますでしょうか?

気になる眼圧は、目薬を1種類使用して、12mmHgまで下がっていて、とてもいい経過です。(手術の効果だけでも正常な眼圧を保てますが、非常に末期の症例で、出来る限り眼圧を下げるために目薬を追加しています。)
白内障手術の効果で視力は0.4から0.8に改善していますが、視野が狭いので、歩くのは大変そうです・・・。緑内障で失った見え方を取り戻す治療ができるといいのですけどね・・・。