今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 13件
・緑内障手術(エクスプレスシャント)1件
・網膜硝子体手術 2件(茎離断1・切除1)
・強角膜縫合 1件(破裂一次縫合)
最後に1件、緊急手術がありましたが、定時に終えられました。
今日の緊急手術からひとつ話題を。
眼球破裂:一次縫合
60代の女性、昨日転んでしまい、左目をぶつけてしまったようです。
水戸市の総合病院様を受診し、午前中に紹介となりました。
視力は光覚弁(-)、とりあえずですが、明るい暗いも分からない、失明の状態です・・・。(手術後に光を取り戻せるといいのですが)
黒目(角膜)の内側が真っ赤で、出血がひどくて、眼内の状態は不明です。
白目(結膜・強膜)も真っ赤で、結膜下出血と呼ばれる状態です。(結膜下出血のブログ)
単に目の中で出血しているだけなら、様子をみるだけで勝手に止血されて、キレイになっていく場合もあります。出血が止まらなくても、最終的に手術で洗えばキレイになります。
ところが、よーく診察してみると、反対の目に比べて、少し目が柔らかいようです(眼圧が低い)。
そんな時は、眼球破裂といって、目玉がパンクしてしまって、中身が漏れ出てしまった分、眼球が柔らかく(眼圧が低く)なっている可能性があります。
眼球破裂を疑って、頭部のCT検査をしてみると、
写真左側が右の眼球ですが、右の眼球はキレイな状態です。赤矢印の先は、白内障術後の眼内レンズです。
写真右側が左目の眼球ですが、右に比べて、内部の色が不均一なのが分かりますか?緑矢印の先の濃い白は、濃厚な出血の塊です。水色矢印の先の真っ黒は、空気になります。⇒残念ながら、眼球破裂が確定です[:悲しい:]
(CT検査では、破裂の有無だけでなく、眼内にガラスや、石の欠片など、異物が見つかることもあります。素手で殴られたとか、明らかに異物がないと言い切れる場合を除き、必須の検査です。)
一次縫合
眼球破裂は、眼科で扱う外傷のうち、最も重篤なものです。
多くの場合で、目の中身が外に出てしまったりします。目の中の何が、どのくらい出てしまったかによって、予後は様々ですが、完全に元通り。なんてことはあり得ません。むしろ、ある程度以上の網膜が破れたり、外に出てしまったりしている場合には、失明することのほうが余程多いのです。
目の中身の殆どがなくなっている場合や、破裂のキズが複雑で、眼球の形状を保てない場合などには、眼球内用除去術という眼球の中身を摘出するような手術をして、義眼の装用を勧める場合もあります。
白内障などの通常の手術では、手術の前に、どういう手術を行って、どんな結果が予想される。という事を説明してから手術を決定します。ただし、眼球破裂では多くの場合で、「手術をやってみて、キズの状態をみてから、良いと思う方法をとりますね。」という説明を行います。(もちろん、最悪の場合は眼球内用除去+義眼とか、一次縫合のみとか、硝子体手術も行うなどの、複数の可能性を説明はしておきます。)
手術室で、消毒を終えた状態です。眼球内は真っ赤ですが、軽く触るとペコペコに柔らかい状態です。どこかにキズ(穴)があって、中身が漏れているようです。
ハサミで結膜を切って、白目(強膜)のどこかに、穴がないか探していきます。
ここにはないようですね。(写真左上の白目はキレイなようです。)
あった!キズがありましたよ。
写真で黒目(角膜)の下方に、緑矢印から緑矢印まで、長ーいキズがありました。5,6年前に白内障手術を受けていたとのことですが、その時のキズがパックリと開いてしまったようです。
(あとあと聞いたら、以前に知り合いの先輩医師に白内障手術をして頂いたようです。先輩すみません。残念ながら、眼内レンズは目の外に飛び出てしまっているようです・・・。)
眼球破裂で、キズ口を探す場合に、昔うけた白内障手術のキズ口が開いて、中身が出てしまうことは、比較的多いようです。(眼球破裂をする人は、非常にまれですので、白内障手術を怖がる必要はありません。)
中の水などが漏れなくなるまで、キズ口を糸でしっかりと縫っていきます。
黒目(角膜)のすぐ裏側にべったりとついた血の塊を除去しています。
出血を洗い流して、網膜剥離などが確認されれば、それも治さなくてはいけません。(出血している状態では、目の中をのぞくことができないため、網膜剥離などが起こっているかを正確に判断することはできません。)
ところが、この患者様、もともと心臓の病気があり、ワーファリンという、血液をサラサラにして、血が固まりにくくなる強いお薬を飲んでいるようです。
少し眼内の洗浄をしてみましたが、血が止まる気配がありません。
こんな時は、潔く撤退です[:GO!:]
今日はきっぱりと撤退し、30分ちょっとの手術で終了です。
血みどろの状態で手術をしても、成功率や安全性が低下します
また、眼球後方の硝子体手術は、目の中に水を循環させながら行うのですが、破裂のキズ口を縫ったとは言っても、しっかりとくっついているわけではないので、循環させる水が漏れ出たりして、やはり安全性が低下します。
眼球破裂の緊急手術では、安全性が低いと思ったら、まずはキズ口を縫って止めるだけ。
これを、一次縫合といいます。
(もちろん、安全に手術が出来ると思える場合には、その場で出来る限りの手術を進めていきます。)
数日から2週間程度で、出血やキズの状態が落ち着いたところで、網膜の手術、2次手術を行う事を考えていきます。
といっても、この患者様が、今後、どんな手術を行う事なるかは、まだまだ未定です。数日後に血が止まって、詳しく検査が可能になったら、網膜の大部分が失われていた。なんていうことが見つかる場合もあり、そんな場合には、今回の一回の手術で終了で、視力や追加の手術を諦めて頂くこともあります。
逆に、追加の硝子体手術で、シリコンオイルを入れて(2次)、数ヵ月後にシリコンオイルを抜いて(3次)。眼球破裂では、後から水泡性角膜症という病態を伴う事もあり、最終的に角膜移植(4次)をして。少しの視力を残すために、何度も何度も手術を重ねる場合もあります。
まずは数日間、入院して頂いて、経過を見守りたいと思います。
少しでも明るさが残るといいのですが。