今日の午後は以下の手術を無事に終えました。
・翼状片手術 1件、白内障手術12件、網膜硝子体手術 4件
それなりの件数ですが、最近はスタッフと宮井先生の能力がUPしているようで、5時前には終わってしまいました。手術の順番待ちも長いので、「これならあと2人くらい治せたかも?」なんて、つい欲が出てしまいますが、あまり無理するのもよくないでしょうか・・・。
さて、最近は毎週のように都内など遠方から難症例の白内障手術にいらしてくださる患者様がいます。今日も3件の白内障がまずまず難しかったのですが、うち1例は、この半年ほどではチャンピオンと思われる難症例があったので、それをネタにブログを書いてみます。
難症例の白内障手術:CTR(水晶体嚢拡張リング)?
情報化社会が進み、医学知識も簡単に手に入るようになりまいした。「白内障って5分で終わる簡単な手術でしょ?」と、少し勉強をされた患者様から聞かれることが多くなりました。その通りで多くの方では簡単なのですが、実は全員が簡単なのではないのです。1%程度ですが10分を超える難症例もありますし、0.1%程度では30分以上の手術とか、手術が2回以上必要になる症例もあるのです。
手術が難しくなる場合というのは、以前に書いたこともありのですが、
小瞳孔、奥目の方、成熟白内障、緑内障(狭隅角)、チン氏帯脆弱、強度近視、強度遠視、角膜混濁、顔や体がふるえる、硝子体出血、難聴、認知症など、いくつか原因が挙げられます。難しい手術を助ける補助器具の開発や、手術技術の向上により、今はどれか一つくらいのリスクでは特に大きな問題は起きないのですが、リスクが2つ、3つと重なっていくと大変です。
今日の患者様は、
・最強度近視(眼軸32mm)
・固定内斜視(目が内下方を見たまま動かない)
・角膜混濁(外傷破裂後の入墨術後)
・角膜内皮減少(1000以下)
・外傷後のチン氏帯脆弱(スリットでグラグラ)
・中等度散瞳
そして高齢で、しかも反対の目もほぼ失明。という悪条件のデパートのような症例でした。
知り合いの先生の紹介でいらした時には、ちょっとだけ「手術を断ってしまいたい・・・。」と逃げてしまいたい気持ちもありましたが、せっかく縁があって当院にいらして頂いたのですし、どこか他に紹介するお勧めもなく、自分で頑張ることに。
まず、以前のブログで白内障手術の復習を(クリック)
通常の白内障手術では、水晶体を包んでいる袋(水晶体嚢)の中身の濁りだけを除去し、残した袋の中に新しい眼内レンズをいれます。
実は水晶体嚢と呼ばれる袋は、無数の細い繊維によって眼球の中に宙づり状態になっていて、この水晶体嚢を支える細い繊維をチン氏帯と呼びます(イメージ図の緑)。
加齢や、生まれつきの疾患、遺伝、そして外傷などによって、このチン氏帯が切れたり、チン氏帯の数が少なくなっていると、水晶体嚢を支える力が強くなります。すると、
白内障や眼内レンズが目の奥に落ちてしまったり、
手術時に水晶体嚢(袋)が縮んで、レンズが入れられなくなってしまうことがあり、
これをチン氏帯脆弱と呼びます。
CTR(水晶体嚢拡張リング)は、チン氏帯脆弱例で、水晶体嚢(袋)の中に強度のあるリングを入れ内側から水晶体嚢を支えることで、袋が縮むのを防いだり、袋の眼内での安定性を向上させて、落下を防いだりしてくれる素敵な手術補助具です。
実はCTRは世界中では、10年以上前から当たり前のように使用されています。日本ではなかなか認可が下りずに、今までは医師が海外製品をこっそり輸入して、こっそり患者さんの目に入れる。といった、微妙な使われ方をしていました。
僕はCTRはあまり使わない方で、例えばこの4年でが4例に使用しました。年に約1例、0.1%未満です。自分のポケットマネーでインターネットで個人輸入をして、合計10万円くらいかかったかと思います。お金だけの問題ではなく、正規のルートでない物品をネットで購入して、人の体に埋め込むことがよいことなのか?倫理的にも難しい面がありました。
そして、とうとう日本でも正式に認可が下り、昨日、国内企業であるHOYA社から正式に発売されたのです!万歳!!
7月1日に発売ですが、今日の重症例の患者様に間に合いました。
(手術を申し込んだのは数ヶ月前で、発売も決まっていなかったのでラッキーでした。)
手術はそれでも難しく、20分弱と白内障手術にしては大変な時間がかかりましたが、もしもCTRがなかったら、眼内レンズを目の中に縫い付ける手術で、さらに時間もかかったでしょうし、角膜も悪くなって濁ってしまうリスクもあったかもしれません。HOYA社に本当に感謝です。
手術画像もUPしようと思っていましたが、遅くなってしまったのでまた明日記載します。おやみなさい。