お陰様で、みなさんまずまずの経過です。昨日、硝子体手術を行った2名は明日退院です。どうにか満床を防げるのかな?
血管新生緑内障 治療
血管新生緑内障は、様々な緑内障の中で、最も重篤、失明率が高い病気の一つとして知られています。治療法はいくつかありますが、重症例では手術が主な治療法になります。
?レーザー治療(光凝固)
糖尿病網膜症や、網膜中心静脈閉塞症など、網膜の血流が悪くなる病気に引き続いて起こる病態ですが、はじめから未治療の場合や、すでに治療後でも、レーザーの追加により、必要とする血流・血液を少なくできるようであれば、まずはレーザーを行います。
レーザー治療により、網膜を焼いて殺してしまい、眼球が必要とする血液を減少することで、眼球が必要とする血液と、実際に残っている血流とのバランスが取れれば、VEGFホルモンが産生されなくなり、新生血管はなくなっていきます。新生血管による隅角の癒着が起こる前にバランスが取れれば、レーザー治療だけで落ち着いてしまう場合もあります。
硝子体手術まで行い、網膜の隅々まで、びっしりとレーザー治療が終えているような症例では、レーザーでさらに網膜を減らすことはできず、緑内障手術に進みむことになります。
?緑内障点眼薬
隅角の閉塞の程度によって、眼圧の上昇が軽度の場合には、眼圧を下げるような点眼薬を使用して乗り切ることもあります。緑内障への点眼薬治療に関しては、以下をご参照ください。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=135859
?抗VEGF薬
血液や酸素が不足した場合には、眼内に新しい血管を生やそうとして、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というホルモンが産生されます。これによって新生血管が発生するのですが、このVEGFの働きを阻害(邪魔)するのが、抗VEGF薬です。
血管新生緑内障以外にも、黄斑変性症や、黄斑浮腫など、新生血管が関連する病気に使われます。
抗VEGF薬には、現在の日本では、ルセンティス・マクジェン・アバスチンといった薬が使用され、ルセンティスやマクジェンは、黄斑変性症という病気に対してのみ保険適応となっており、血管新生緑内障や、黄斑浮腫などは適応外となっています(2012年2月現在)。非常に高価な薬であり、当院を含めてほとんどの施設がアバスチンという薬を輸入して、未認可ですが使用しています。おかしな医療情勢ですが、どうにかならないかと。
アバスチン参照⇒http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=127380
アバスチンは非常に有用な薬で、投与によって、多くの場合で、みるみる新生血管がなくなっていきます。新生血管による隅角の癒着が起こる前にアバスチンの注射をして、レーザーの追加により血流のバランスを取ることができれば、手術をせずに落ち着かせることができます。
ただし、重症例では、アバスチン注射によって、一度は新生血管がなくなり、眼圧が下がっても、血流のバランスが取れていない状態が残ってしまい、アバスチンの効果が切れる1ヶ月前後(もっと早いことも)で、結局は眼圧が再上昇してきてしまうことが多くあります。
?緑内障手術
血管新生緑内障は非常に重症の緑内障で、???の治療を行っても、なかなかコントロールがつかずに、結局は手術が必要になる症例が多くあります。
緑内障手術といっても、本来は数種類の方法がありますが、血管新生緑内障では、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)という手術が一般的です。トラベクレクトミーは、眼球に穴をあけて、中で溢れてしまっている房水を、眼球の外に流して眼圧を下げるという手術です。
手術の詳細は次回、昨日のビデオ写真でも振り返りながら記載したいと思います
が、同じトラベクレクトミーでも、一般的な緑内障に行う場合に比べて、血管新生緑内障に対して行う手術は難しいとされています。新生血管が目の中にあるために、手術中や手術後に出血をしてしまったり、せっかく開けた水の流れ道が、出血やVEGFの作用により癒着をしてしまうと言う事が多いためです。
当院では、開院以来の1年半のみですが、血管新生緑内障でトラベクレクトミーを行った症例で、失明者はゼロです。手術効果が不十分で、術後に緑内障の点眼薬を追加している症例も1例もありません。というか、血管新生緑内障のみでなく、他の緑内障も含めて、トレベクレクトミーを行った全症例で失明ゼロ。全員が正常域の眼圧を保っており、緑内障の点眼薬の追加をしている症例も1例もありません。(ニードリングという、外科的に癒着を剥がす処置を追加している方は数名います。手術を希望しなかった症例もいます。)
治療経過が長くなれば、癒着をしたり感染を起こしてしまう患者様も増えるので、5年、10年後の成績が重要なのはもちろんですが、現時点では非常に良好な成績を保てているようです。
個人的に治療に気をつけていることもあるので、手術方法や、術後の処置など、今回のケースを例に、また記載していきたいと思います。
(といっても、さっそく先ほど術後前房出血という状態になり、明日からの治療に困惑しているところですが・・・[:冷や汗:])
何があっても全力で頑張る以外ありません。