血管新生緑内障? 治療

お陰様で、みなさんまずまずの経過です。昨日、硝子体手術を行った2名は明日退院です。どうにか満床を防げるのかな?

血管新生緑内障 治療
血管新生緑内障は、様々な緑内障の中で、最も重篤、失明率が高い病気の一つとして知られています。治療法はいくつかありますが、重症例では手術が主な治療法になります。

?レーザー治療(光凝固)
糖尿病網膜症や、網膜中心静脈閉塞症など、網膜の血流が悪くなる病気に引き続いて起こる病態ですが、はじめから未治療の場合や、すでに治療後でも、レーザーの追加により、必要とする血流・血液を少なくできるようであれば、まずはレーザーを行います。
レーザー治療により、網膜を焼いて殺してしまい、眼球が必要とする血液を減少することで、眼球が必要とする血液と、実際に残っている血流とのバランスが取れれば、VEGFホルモンが産生されなくなり、新生血管はなくなっていきます。新生血管による隅角の癒着が起こる前にバランスが取れれば、レーザー治療だけで落ち着いてしまう場合もあります。
硝子体手術まで行い、網膜の隅々まで、びっしりとレーザー治療が終えているような症例では、レーザーでさらに網膜を減らすことはできず、緑内障手術に進みむことになります。

?緑内障点眼薬
隅角の閉塞の程度によって、眼圧の上昇が軽度の場合には、眼圧を下げるような点眼薬を使用して乗り切ることもあります。緑内障への点眼薬治療に関しては、以下をご参照ください。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=135859

?抗VEGF薬
血液や酸素が不足した場合には、眼内に新しい血管を生やそうとして、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というホルモンが産生されます。これによって新生血管が発生するのですが、このVEGFの働きを阻害(邪魔)するのが、抗VEGF薬です。
血管新生緑内障以外にも、黄斑変性症や、黄斑浮腫など、新生血管が関連する病気に使われます。
抗VEGF薬には、現在の日本では、ルセンティス・マクジェン・アバスチンといった薬が使用され、ルセンティスやマクジェンは、黄斑変性症という病気に対してのみ保険適応となっており、血管新生緑内障や、黄斑浮腫などは適応外となっています(2012年2月現在)。非常に高価な薬であり、当院を含めてほとんどの施設がアバスチンという薬を輸入して、未認可ですが使用しています。おかしな医療情勢ですが、どうにかならないかと。
アバスチン参照⇒http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=127380
アバスチンは非常に有用な薬で、投与によって、多くの場合で、みるみる新生血管がなくなっていきます。新生血管による隅角の癒着が起こる前にアバスチンの注射をして、レーザーの追加により血流のバランスを取ることができれば、手術をせずに落ち着かせることができます。
ただし、重症例では、アバスチン注射によって、一度は新生血管がなくなり、眼圧が下がっても、血流のバランスが取れていない状態が残ってしまい、アバスチンの効果が切れる1ヶ月前後(もっと早いことも)で、結局は眼圧が再上昇してきてしまうことが多くあります。

?緑内障手術
血管新生緑内障は非常に重症の緑内障で、???の治療を行っても、なかなかコントロールがつかずに、結局は手術が必要になる症例が多くあります。
緑内障手術といっても、本来は数種類の方法がありますが、血管新生緑内障では、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)という手術が一般的です。トラベクレクトミーは、眼球に穴をあけて、中で溢れてしまっている房水を、眼球の外に流して眼圧を下げるという手術です。
手術の詳細は次回、昨日のビデオ写真でも振り返りながら記載したいと思います
が、同じトラベクレクトミーでも、一般的な緑内障に行う場合に比べて、血管新生緑内障に対して行う手術は難しいとされています。新生血管が目の中にあるために、手術中や手術後に出血をしてしまったり、せっかく開けた水の流れ道が、出血やVEGFの作用により癒着をしてしまうと言う事が多いためです。

当院では、開院以来の1年半のみですが、血管新生緑内障でトラベクレクトミーを行った症例で、失明者はゼロです。手術効果が不十分で、術後に緑内障の点眼薬を追加している症例も1例もありません。というか、血管新生緑内障のみでなく、他の緑内障も含めて、トレベクレクトミーを行った全症例で失明ゼロ。全員が正常域の眼圧を保っており、緑内障の点眼薬の追加をしている症例も1例もありません。(ニードリングという、外科的に癒着を剥がす処置を追加している方は数名います。手術を希望しなかった症例もいます。)
治療経過が長くなれば、癒着をしたり感染を起こしてしまう患者様も増えるので、5年、10年後の成績が重要なのはもちろんですが、現時点では非常に良好な成績を保てているようです。
個人的に治療に気をつけていることもあるので、手術方法や、術後の処置など、今回のケースを例に、また記載していきたいと思います。
(といっても、さっそく先ほど術後前房出血という状態になり、明日からの治療に困惑しているところですが・・・[:冷や汗:])
何があっても全力で頑張る以外ありません。

血管新生緑内障? 病態 その2

土曜日は通常は午前外来のみなのですが、重症例で少し急いで手術をするべき人がいたため、午後は手術としました。(スタッフのみなさん、ご協力ありがとうございます。)
・網膜硝子体手術(茎離断)2件
(網膜動脈瘤破裂1件、網膜中心静脈閉塞症+黄斑浮腫1件)
・緑内障手術(血管新生緑内障:レクトミー)1件
手術は問題なく終わりましたが、明日以降もしっかりと処置が必要です。
別件ですが、午前中に網膜剥離の患者様が来院されました。初期なので月曜日に準緊急手術の予定ですが、すでに10件位手術が入っているようです。満床問題が発生するに違いない[:冷や汗:]今日の手術の患者様がすぐに退院可能になるといいのですが。

さて、昨日の続きです。
血管新生緑内障 病態 その2
血管新生緑内障は、目の血管が詰まって、血流が悪い場合に発生する新生血管によって、房水の出口(隅角)がふさがれてしまい、眼圧が上昇する疾患です。
主に糖尿病網膜症や、網膜中心静脈閉塞症という病気の重症例や、末期の症例に起こります。
全く眼科に受診せず、初めて診察した時点ですでに血管新生緑内障を発症しているような方もいらっしゃいますが、眼科で手術を受けたり、きちんと治療をうけていても発症してしまう場合も多々あります。眼科にかかっていたのになんで?と思う方もいらっしゃいますが、あまりに血管が詰まってしまうと、今の医学ではどうにもできないのです。

説明も難しいので、ちょうど本日手術をした患者様の例で記載してみます。
糖尿病の患者様ですが、お時間のある方は糖尿病網膜症についてご参照下さい。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4922

30代の糖尿病の患者様です。お父様もお母様も糖尿病。残念ながら内科の通院を中断してしまい、その後に、視力低下を自覚して当院に初診となりました。
視力は両眼ともにメガネをかけても0.3?0.4しかありません。

左が右眼、右が左眼です。右眼の写真では、赤矢印の先から下方に向かって赤い出血(硝子体出血)を認めます。左眼はオレンジ色の丸い視神経乳頭を緑矢印で拡大しますが、その右側に赤いくるっと丸い血管が見えるでしょうか?これが新生血管です。また、両眼ともに、下のOCT画像では黄斑浮腫(おうはんふしゅ)という病態を認め、黄色矢印の部分に水が溜まって、網膜が厚くなっていることが分かります。専門的には、右眼はB?+M、左眼がB?+Mという進行期で、治療をしなければ早々に失明が危惧される重篤な状態です。(もともと若い患者様は重症化しやすい傾向があります。)

造影検査でも血流の途絶えた無血管野や、造影剤が大量に漏れ出し、多数の新生血管が存在することが分かります。

治療を開始し、ステロイドや抗VEGF薬注射や、レーザー治療など、1年前の昨年の冬には、両眼の網膜硝子体手術まで施行しました。

これは、今から2ヶ月前、昨年末の写真です。

青矢印の先にあるような、白?灰色の丸い斑点が多数見えますが、これがレーザー治療で、網膜を焼いたあとです。下のOCT画像でも、治療前に溜まっていた水がなくなり、網膜が薄っぺらくなり、黄斑浮腫が消失しています。
治療によく反応し、両眼ともに矯正視力0.8?0.9まで回復し、昨年の春から年末までずっと良好な状態を保っていました。

糖尿病網膜症や、中心静脈閉塞症など、血管が詰まって血流が悪くなる病気で、もっとも理想的な治療法は、血管の詰まりを解消し、血流を元通りに戻すことです。しかし、残念ながら、現在の医学ではそういった治療法はありません。
血管が詰まったら、詰まったままです。少ない血液でもバランスがとれるように、わざとレーザーで網膜を焼いて、網膜を殺して、今ある血流・血液のみで、残りの網膜が生きていけるようにバランスを取る治療をおこなうのです。バランスがとれずに、必要とする血液が足りないままでいると、VEGFというホルモンの働きによって、目の中に新生血管が発生して、最終的には大出血につながってしまうのです。レーザーで焼いた部分は基本的には見づらくなってしままいますが、仕方のないことです。
畑の作物で、肥料が足りないから、全滅してしまうよりは、間引きを行って、重要な部分だけは助けよう。と言うのに似ています。

上の治療後の写真でも、中心部のあたりにはレーザー治療のあと(灰色の丸)が見当たりません。黄斑部(おうはんぶ)や後局(こうきょく)と呼ばれる、網膜の中心部をレーザーで焼いてしまうと、中心部の視力がなくなってしまいます。このため、黄斑部(中心部)はレーザーが出来ない場所なのです。もし、中心部をレーザーで焼いてしまえば、必要な血液は少なくなりますが、治療のせいで目が見えなくなってしまうので、矛盾してしまいますよね。

図の赤い部分の網膜をレーザーで焼いて殺して、緑の部分を助けよう。というのが治療の目的で、緑丸の中心部の網膜は焼けませんし、緑矢印の眼球の前の方の組織も構造上、焼いてしまう事ができません。
?少し血流が悪い人は、赤い部分をまばらにレーザーで焼くことで、少しだけ網膜を殺して、目が欲しがる必要な血流を少し減らします。
?重症で、血流の不足が大きい人は、視野が狭くなりますが、赤い部分をしっかりと焼いて、必要な血液を出来る限り少なくします。
?赤い部分を全て焼いてしまっていても、さらに血管が詰まって、限りなく血流・血液が足りなくなってしまう場合には、血管新生緑内障が発症します。血液の不足により、目の中に新しい血管を欲しがるVEGFというホルモンが出てきますが、網膜はレーザーで焼いてしまってあるので、新生血管は発生しません。
VEGFが茶目(虹彩)や、隅角に作用して、目の前の方の組織に新生血管が発生してしまうのです。

昨日も載せた画像ですが、こんな感じに新生血管が発生します。

一昔前は、糖尿病で失明。というと、眼底出血(硝子体出血)で、目の中が血みどろだったり、カサブタだらけになって失明。というパターンが多かったのですが、治療法や、手術成績の向上により、出血やカサブタといった増殖網膜症とよばれる状態で失明に至る人は激減しています。
なので、糖尿病網膜症で失明する患者数は全体としては減ってきていますが、そのような手術を乗り越えて、さらに血管が詰まってしまった超重症例では、血管新生緑内障という形で失明する割合が増えているのです。

糖尿病は治りませんので、どんなに治療が上手くいっても、その後の血糖値が不良であれば、目の血管はさらに詰まっていきます。高血圧や喫煙でも血管は詰まっていきます。
一度、眼科で治療を受けて、どんなに目の状態が落ち着いたとしても、定期検診が絶対に必要なのは、さらに血管が詰まった場合には、レーザーを追加したりする必要があるからです。
硝子体手術まで行って、目の奥の隅っこまで、出来るところはレーザーを行っても、それ以上に血管が詰まれば、血管新生緑内障を発症します。難しい病態ですが、血管新生緑内障の治療が上手くいって落ち着いたとしても、全ての血管が詰まれば絶対に失明します。内科の医師や眼科の医師から、「血糖値、血圧、食事、禁煙。」何度も言われるのは、嫌な事だと思いますが、体のためを思ってのことです。

血管新生緑内障? 病態 その1

一昨日、血管新生緑内障という病気に関して、少し変なブログを書いてしまいましたが、本日、当院にもあたらに2名の血管新生緑内障の患者様がいらっしゃり、手術を行う予定となりました。いつかは書こうと思っていた病気なので、今回を期に筆を進めてみたいと思います。

血管新生緑内障(けっかんしんせいりょくないしょう)
病態 その1
まず緑内障という病気に関してですが、お時間のある人は、左のカテゴリーで「緑内障」というものを読んで頂ければと思います。お時間のない人は大まかに以下を。
眼圧http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=133813
病態http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=134101
分類http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=134202

緑内障とは、眼圧に関連して視神経が障害され、視野(見える範囲)が狭くなる病気です。
目の内部を循環して、眼球の膨らみを保つ「房水:ぼうすい」という水が、目の中に溢れてしまうと、眼球を内側から膨らませる力(眼圧)が大きくなり、眼球の内側からの圧力で、視神経が押しつぶされてしまうといった病態です。
?房水の産生量が増える
?房水の排出量が減る
以上のどちらか、または両方が起こると、眼圧が上昇するのですが、
血管新生緑内障は「?房水の排出量が減る」ことで眼圧が上昇します。

まず正常な隅角(ぐうかく)と呼ばれる房水の出口の構造です。
左図の矢印の先が隅角で、ここから房水が排出されます。
右は隅角の写真ですが、下側の茶色が虹彩、上側は角膜に相当します。

次は血管新生緑内障での隅角です。

隅角に新生血管が発生し、出口としての構造を防いでしまうと、房水の排出ができなくなり、眼圧が上昇します。右の写真は本日の患者様ですが、青矢印の先の赤いものが新生血管です。矢印以外にも、その右の方にある、赤く見えるのは全て新生血管です。緑の範囲の隅角が全体的に赤く充血しています。

新生血管(しんせいけっかん)とは、
網膜などの目の中の血流が障害され、虚血状態(血が足りない状態)になった場合、網膜はより多くの血流を得ようとして、目の中に新しい血管を生やそうとするホルモン(血管内皮細胞増殖因子:VEGF)を産生します。このVEGFというホルモンの働きによって、新しい血管、つまり新生血管が発生します。新生血管の発生によって血流が改善するのであればいいのですが、残念ながらそう上手くは行きません。眼底にできた新生血管のほとんどは、できそこないの血管で、ちょっとしたことで大出血を起こしてしまいます。また、新生血管が生える場所も問題で、本来は血管のない隅角に生えてしまったりすると、房水の排出が障害され、血管新生緑内障になってしまうのです。

つまり、血管新生緑内障は目の虚血(血が足りない)ことに、続発する病気であり、続発性緑内障と呼ばれるグループに属します。
血管新生緑内障を引き起こす病気としては、主に以下の二つがあります。
?糖尿病網膜症http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=131321
?網膜中心静脈閉塞症http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4924
他にぶどう膜炎や、網膜中心動脈閉塞症などでも起こることがあります。

今日の患者様は、2名とも糖尿病網膜症が原因です。
1名は30代の糖尿病、喫煙者の男性で、当院で1年前に両眼の網膜症に対して硝子体手術をしています。なんと両眼(眼圧右60と左40)の発症で、右眼は明日そうそうに、準緊急で手術です。
もう一名は70代の男性で、他院様でですが、やはり両眼ともに数回の手術歴があります。目薬や飲み薬で少しは待てる症例なので、月が明けてから手術をしたいと。
糖尿病って基本的に治らない病気なので、眼科の治療で一度は落ち着いても、さらに血管が詰まれば、追加の治療が必要になってしまいます・・・。どんなに治療を頑張っても、全ての血管が詰まって生きていける目はありません。目の手術が必要になる糖尿病って、かなり重症です。手術後の患者様は、それ以上、血管が詰まることがないように、難しいのだとは思いますが、より血糖値に気つけなければなりません。そして、煙草は血管を収縮させます。絶対にやめましょう。

血管新生緑内障は、様々な緑内障のなかで最も予後が悪い(失明率が高い)緑内障として有名です。絶対に救いたい。明日から全力で治療を行います。経過とあわせて、病気の解説をしていこうと思います。

では、おやすみなさい。
今日もお読み頂きありがとうございました。

よくなる病気、よくはならない病気、助けられない病気

今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 10件
・網膜硝子体手術(茎離断)2件
 (黄斑前膜1件、増殖糖尿病網膜症1件)
みなさん問題なく終わっています。

最後の症例は、未治療の糖尿病なのですが、ちょっと変な症例でした。

小さな白いカサブタが、眼底の広範囲にまんべんなく張っていて、術後にビデオで数えると18か所も。手術でキレイに取れたため、うつ伏せなども必要ありませんが、一つ一つ削り取るような方法で45分くらいかかりました。疲れた。
しかも、目の中がカサブタだらけなのに、中心部には硝子体出血は少なくて、黄斑浮腫がそれなりにあるのですが、手術前の中心視力はまだ0.9もあるのです。(反対の目は、初診時からかなりヒドイ状態で、良好な視力は望めません。)
今回の手術では、とにかく失明を防いで、上手くいけば運転免許の0.7を温存したいというのが最大の目標です。

今日のような手術では失明を防ぐことが目的で、視力の回復が得られるわけではありません。手術がどんなに上手くいっても、手術後に「あまり見えないね・・・。」とか言われる事が多く、眼科医としてはガッカリすることがほとんどです。
同じような手術をする場合には、「今回の手術は回復が目的ではありません。失明を防ぐために行うもので、むしろ手術前より少し見えにくくなります。それでも失明を防ぐためには必要です。」と、手術の前に何度も説明しているつもりです。
すると、みなさんその場では「分かった。」とおっしゃるのですが、「手術をすれば見えるようになる。」という概念が強い患者様が少なくありません。
例えば、手術前が視力0.2、手術後が0.4と、むしろ視力が改善していても、「まだすっきり見えない。」「かすむ」などと言われることも多々あります。
こちらからすると、「手術は成功して、約束通り失明を防いだ!」と充実した気持ちでも、「まだ見にくい。」なんて言われると、「まだ見えないって、現状維持が目標で、それ以上良くならないって、何度も言ってますよ・・・。」と、ガッカリしてしまいます。
白内障の手術はみんな喜んでくれるのですが、糖尿病網膜症や、網膜中心静脈閉塞症での硝子体手術、緑内障などは、現状維持が目標の事も多く(病状によって様々ですが)、基本的にあまり喜ばれないのですよね・・・。網膜剥離や、黄斑円孔でも、どんなに上手くいっても、完全に元の状態に戻ることはありえないと説明してから手術をするのですが、「少しゆがむ」「少し暗い」と、「何で治せないんだ?」という剣幕でおっしゃる方も・・・。

でも、喜ばれないと分かっていても、誰かが引き受けなければいけません。嫌な思いをしても、もっと悪くなったり、失明する可能性があるものを放っておいて、実際に失明されてしまったら、もっと嫌な気分なのかな?と、僕は思ってしまうので、なんでも引き受けてしまうのですが、たまには、ガッカリして疲れてしまう事もあります。

今日のブログはグチになってしまいました。
朝に、芸能人の旦那様が、「網膜中心静脈閉塞症で失明」というニュースがあり、もちろん当院とは関係ありませんが、「手術をするたびに悪くなったという印象」なんてコメントがあり、きっとその担当医も全力でやったろうに。と思うと、ちょっとやるせない気持ちになってしまいまして。
すべての病気が治せるわけではありません。元に戻るわけでもありません。喜ばれないと分かっていても、出来る限りの治療をしてあげたい。と、医師はきっとみんなそう思っているはず。
さっき、その芸能人のブログをみてみましたが、「手術のせいで悪くなった!」という書き方ではありませんでしたが、その文章だけを選んで報道するマスコミの取り上げ方に問題があるのでしょうか。面白く報道すればいいというものではありません。
同じ中心静脈閉塞症の患者様が、この報道を見て「手術したら失明するんだ」と思ってしまったらどうするのでしょう?元には戻らなくても、光を残せる可能性のある目を治療できなくなってしまう可能性があるとは考えなかったのでしょうか。

今日は少し感情的なブログになってしまい、申し訳ありません。最後まで読んで頂きありがとうございます。

ちなみに、僕の妻のおばあちゃんも、3年前に網膜中心静脈閉塞症になってしまい、硝子体手術も緑内障手術もして。その後も何回もアバスチンの注射をして、どうにか最近は落ち着いて0.3を保っています。出来ることは全部やったつもりですし、もっと見えるように、どうにかしてあげたいけど。
どうにもできないこともあるのですよね。無力・・・。

帯状角膜変性症?

今日の午後は小美玉で井上先生と手術、夕方は県内の医院様で硝子体手術のお手伝いをさせて頂きました。
無事に終わっています。

午前の外来では、以前に一緒に仕事をした事がある、メガネ屋さんの紹介で患者様がいらっしゃいました。また、コンタクトレンズ関係の仕事の方の紹介でいらした方も。どちらも遠方からの紹介で、近くにも眼科があるかと思いますが、わざわざ当院を紹介してくれたようです。紹介の方の名刺を持参したりして。
眼科関係のかたに紹介を頂くのって、信頼関係と言うか、とても嬉しいです。
もう数年、顔をあわせておらず、連絡も怠ってしまっていたのですが、ありがたいなと思います。懐かしいというか、機会があればまたお会いしたい方って沢山います。

さて、ちょっとサボっていましたが、今日は病気の事を。
帯状角膜変性症(たいじょうかくまくへんせいしょう)
角膜(黒目)に、カルシウムなどが沈着し、角膜が濁っていく病気です。まぶたが開く隙間の部分(瞼裂:けんれつ)を中心に濁るのですが、角膜の中心部からやや下方に、横に濁りが広がります。

原因
腎臓病や副甲状腺の病気、リウマチなどの全身疾患をお持ちの方や、ぶどう膜炎、緑内障などの目の病気をお持ちの方に出やすい傾向がありますが、何の病気もない人にも出ることがあります。一部は遺伝性のものもあります。また、手術でシリコンオイルが入っている方や、一部のステロイド点眼剤の副作用などでも起こりえます。
房水の代謝異常や、涙の異常(ドライアイや、酸アルカリなどのpHの異常)などが関連しているようですが、また明確な原因・病態はまだ分かっていません。

症状
進行のスピードは人それぞれですが、進行ともに濁りが強くなり視力が低下します。また、表面がざらつくために、傷がついたりして、痛みや充血、メヤニの原因になることもあります。

腎臓が悪く透析をされている患者様の写真です。角膜の中心部より少し下方に、左右に広がる白い混濁が見えるでしょうか?右の写真は、光の当て方を工夫して、濁りが目立つように撮影しています。




今月当院にいらした患者様たちですが、上はぶどう膜炎後の患者様、中央は緑内障で手術後の患者様、下は生まれつき見えない(先天盲)の患者様です。やはり、目の病気をお持ちの方に多くみられます。

治療
ぶどう膜炎があれば、その治療を。ドライアイがあれば、その治療を。行っていきますが、明確に進行を予防する方法はまだありません。
濁りが強くなって、視力が下がってしまった場合や、痛みが強い場合には、以下の治療を行います。

?PTK(レーザー治療的角膜切除術)
角膜ジストロフィーで書いたものと、全く一緒です。以下参照。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=138832
濁った角膜をレーザーで削り取ってしまう術式です。安全で、よい成績が期待できますが、残念ながら、様々な理由で保険適応が得られず、自由診療だと費用が高めになります。また、治療後にはメガネなどの屈折が遠視となります。

?濁りを溶かしちゃう。
まるで化学の実験のようですが、酸でカルシウムの結晶を溶かしてしまおう(キレート)。といった治療です。塩酸EDTAと呼ばれる薬品を使用します。結構簡単に溶けだしてしまうのですが、あまり溶かしすぎると、角膜が濁ってしまうなどの副作用が出ることがあり、注意が必要です。点眼麻酔で数分の治療です。

?ゴリゴリ削り取る。
レーザーや薬を使わずに、鑷子などでゴリゴリ削り取る。という、かなり古典的な治療法です。視力の回復という意味では、上記の??にはかなり劣ります。他の病気などの状態で視力があまり期待できない場合や、カルシウムがガッチリと硬く付いている場合などに、仕方なく行ったりします。これも点眼麻酔で数分の治療です。

?や?は保険診療で、1割負担で2650円の手術になります。

どの治療法も、一度濁りをとっても、再発する可能性があります。
また、何度も何度も削ったり、溶かしたり出来るものではありません。
治療によって、角膜の表面にキズが出来るため、キズが治るまでの数日間は、けっこう痛みがあります。このため、痛みがなくなるまでの間は、ソフトコンタクトレンズで表面を覆うなどして経過観察を行います。

最新式MRI Ingenia3.0T?

今日は一昨日記載した、最新式MRIでとれる画像を、一部ご紹介してみます。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=139113

Ingenia3.0T


上から、頸椎、腹部、乳房の画像です。
ブログにアップするために、仕方なくかなり画質を落としています。それでもこのキレイさ。ビックリします[:びっくり:]通常のMRIとは全く違います。僕も首がちょっと悪いのですが、予約が空いてきたら撮ってほしいな。


これは前回も紹介した、全身拡散強調画像:body difussion。体に癌がないかなどを調べられます。


脳ミソの線維!


これもビックリする画像ですが、脳の血管です。
今までのMRIでは、細い血管は全くうつりませんでしたが、脳卒中に重要な卒中動脈なんかもうつるんですって。クモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤もわずか2mmのものから発見できるようになりました。
眼科的にも、普通に眼動脈が見えます!!嬉しい!!興奮してしまいます。

教科書に載っているMRI画像とは比べ物にならない、細かさでとれるMRIですが、日本ではまだ数台しかなく、大学病院などにも同じ機種がないので、現時点ではどの眼科の教科書にも、これほどの画像を正確に論じているものがありません。
どうやって評価をしていいのか、これから勉強・研究しなくては。今までのものに比べて、診断能力が劣ることはあり得ませんが、もっともっと正確で、よい医療につながることは間違いありません。せっかくの素晴らしい器械です。眼科医としても新しい利用法を研究していきたいと思います。
目の画像も適宜upしていきますね。

今日の夜は眼科の沢山の先輩方と勉強会です。いってきます。

最新式MRI Ingenia3.0T?

ちょっと遅れてしまいましたが、最近、医師として嬉しいことが。
実は、少し前から、山王台病院本院で、新型のMRI装置が稼働しています。

最新MRIの導入
PHILIPS社製 Ingenia3.0T

Ingenia3.0Tという機種のフルオプション搭載機器で、現時点では最高のMRIと言えます[:見る:]

人間の肉眼で体の内部をのぞく事は出来ません。(眼球は直接のぞける、非常にまれな組織です。)
体の中の状態を調べるために、昔から医療では、超音波(エコー)を使ったり、放射線を利用してレントゲンを撮ったり、さらに高度になるとCTで断面図を撮影したり。そのうち、磁場・磁力を利用してMRIという撮影が行われるようになりました。
MRIは、脳梗塞や脳腫瘍など脳の病気、脊髄の病気、腹部や女性器の病気、筋肉の病気、目の奥の眼窩の病気、現代の医学では、まだまだありとあらゆる病気の評価にとても役立ってきました。

今回、導入されたMRIはどこが新型かというと、
?通常のMRIは1Tとか1.5T(テスラ)と呼ばれる強さの地場を使用しますが、今回の機種は3T(3テスラ)という強い磁場を利用することで、画質が向上し、より詳細で正確な検査結果を得ることができます。また、検査時間も短く
なり、患者様の負担を減らすことができます。
?3TのMRIは数年前から存在しましたが、ノイズの大きさや歪みが問題となることがありました。今回のPHILIPS社製のIngenia3.0Tは、特殊デジタルコイルの開発により、強い信号強度を得ることが可能な一方、ノイズや歪みを減少し、より高画質での撮影が可能です。
?200cmと、非常に広い範囲での高速撮影が可能で、全身の撮影が行えるようになりました。
?これらにより、全身拡散強調画像の撮影によって、全身の癌検索や、癌の転移の確認などを行うことが可能になります。


これは、全身拡散強調画像:body diffusionの撮影ですが、体の様々な場所に癌が転移していることが、一回の撮影で分かってしまうのです。同じような検査を、これまではPETと呼ばれる、放射線物質(放射能)を体内に点滴で入れる検査で行ってきましたが、全く副作用のないMRIで行えるようになったことは非常に画期的です。
「全身に癌がないか調べたい。」みんなの憧れですよね。都内などで数十万円かけて、PETを取り入れた人間ドックを受ける方もいらっしゃいますが、MRIで同じような検査ができるようになるなんて、素敵です。(検査によって、得意な癌、不得意な癌がありますので、担当医とよくご相談下さい。)
僕の両親にも絶対に受けさせますが、今のところ、とにかくMRIの予約が混んでいるので、数ヶ月待ってから茨城に呼びたいなと。

これから、徐々にのせていきますが、眼科としてのMRIも取るたびにビックリしています。
専門的ですが、直筋や斜筋なんてあたり前。眼動脈や眼静脈、しかも眼動脈から涙腺に伸びる血管まで、追う事が出来ます。視神経周囲の脂肪なんかもくっきり。今まで、MRIではよくうつらなかったけど、たぶん視神経炎でしょう。なんて言っていた症例も、Ingenia3.0Tならあたり前のように撮影できるのではないかと。
新しい器械で、今まで見えなかった病気が、手に取るように分かる。こういうのって、医者としてはものすごく刺激的で、ワクワクします。幸せ[:ときめき:]

先進医療認定施設 多焦点眼内レンズ

今日は以下の手術を行いました。
・眼瞼内反症手術 1件(加齢性のさかさまつげ)
・白内障手術 5件
・網膜硝子体手術 2件(離断1・増殖1)
 (黄斑前膜1件、増殖糖尿病網膜症1件)
無事に終わりましたが、

この糖尿病が辛かった・・・。
コンステレーションでオイルもいれて、1時間半もかかりました。
(最近は1時間半かかる手術って、年に1件か2件です。)

昨年、申請をして、認定が下りたものの、ついつい忘れていたことが。
実は、当院も先進医療認定施設に認定されました。
先進医療認定施設
多焦点眼内レンズ

先進医療とは、一般の保険診療で認められている医療の水準を超えた最新の先進技術として、厚生労働省が認めた医療機関のみが実施できる医療行為のことです。

よい医療、最先端の医療の全てが保険適応となるのが理想ですが、不況の世の中、財源も限りがあり、そうはいかないのが現状です。
そういった医療は自由診療と言って、全額自費でやり取りをしなくてはいけませんが、一般的に自由診療は高額です。

また、自由診療と保険診療を一緒に行う事を、混合診療と言いますが、国民皆保険の問題とか、医療の平等性とか、いろいろな問題で現在の日本では混合診療は認められていません。なので、自由診療を一部でも受けてしまっていると、本来は保険診療で受けられるべき検査などまで全額自費になってしまうので、とにかくお金が何倍もかかってしまうのです。なんかちょっと矛盾している気もしますが、これを破ることは法律上できませんでした。

ただし、安全性や有益性などから、厚生労働省が取り決めた一部の医療については、自費で賄われるべき先進的な医療と、保険診療との併用が認められるようになりました。それが先進医療です。
これにより『先進的な医療・特殊な医療にかかる費用』は全額自己負担となりますが、『先進医療にかかる費用』以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・薬代等)の費用は、保険診療で行うことが出来るようになります。

眼科では、白内障手術時に多焦点眼内レンズを入れる手術が先進医療として認められています。(多焦点レンズに関しては、別の機会に書きたいと。)
ただし、どの病院でも先進医療として保険診療を利用できるわけではありません。手術数や専門医、視能訓練士の有無など一定の基準を満たしていないと認定施設として、認められないのです。

手術数や実績は1年以上の結果を添付しないといけないので、申請出来ずにいたのですが、昨年、開院後1年半で基準を満たしたので、申請してみました。
結果、厚生労働省より、H24年1月1日付けで、
当院も先進医療認定施設として認定されました。
ので、ここにご報告致します。

厚生労働省のHPに認定施設の一覧が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html
数えてみると、現在のところ、199施設が認定されているようです。
日本中で、白内障手術を行っている医院は、約3600施設と言われているので、認定施設は5%ちょっと。開院1年半でその中に入れたのは、おそらく最速かと。ちょっと嬉しい[:祝:]

茨城県では、7施設目になるようです。
他には、
?つくば市 高田眼科様
?つくば市 筑波大学附属病院様
?取手市 松本眼科様
?水戸市 小沢眼科内科病院様
?ひたちなか市 中村眼科医院
?ひたちなか市 赤津眼科様

そして、?石岡市の当院となりました。パチパチ[:拍手:]

???まで、比較的歴史のある有名な眼科ばかりです。
山王台病院 眼科も頑張って行きたいです!

角膜ジストロフィー? 治療その2

今日は午前の外来が55名。
緊急で眼窩底骨折の患者様がいらしてこれからMRIをとります。手術にならないといいのですが・・・。
お昼は13時半から白内障4件、結膜弛緩症2件の予定です。
夜は外出する予定なので、今日はお昼休みにブログを書いてしまおう!

先週に引き続き、角膜ジストロフィーの治療です。
角膜ジストロフィー? 治療その2

濁った角膜を交換しよう!
角膜移植
角膜が沈着物で濁ってしまった場合、濁りを取り除かなくてはいけません。
前回は、角膜の表層が濁った場合の治療で、レーザー光線を使用して削り取る、PTKという治療を記載してみました。
角膜ジストロフィーと言っても、沈着物の種類や遺伝子異常の違いによって、濁りの程度や、沈着物が蓄積する場所は様々です。PTKは顆粒状角膜変性症などの表層の濁りを削り取ることは得意ですが、濁りが角膜の深い部分にある場合では削り取ることはできません。濁りが深い場所にある場合は別の治療が必要になります。
こんな場合は、角膜を丸く切り抜いて別の角膜と交換してしまう、角膜移植という治療法が行われます。
人工角膜の開発も進み、ある程度は人間に使われることが増えてきてはいますが、現在の医学で行われる角膜移植のほとんどは、亡くなった方のご好意でアイバンクを介して頂くものです。ドナーカードをお持ちいただける方が増えては来ていますが、まだまだ数に限りがある、とても貴重な角膜です。また、PTKと比べて、かなり大掛かりな手術で手術自体のリスクもあり、治療には細心の注意や病気へのご理解が必要です。
昨年、角膜移植を行って頂いた70代の患者様の写真です。角膜移植で有名な千葉県の大学病院様に紹介、手術を行って頂きました。

青が自分の濁った角膜、赤が交換したキレイな角膜です。
大変申し訳ありませんが、PTKに引き続き、角膜移植も当院では行っておりません。当院は、ほとんどの眼科手術に対応していますが、レーザーを使用した屈折矯正手術、PTK、角膜移植、涙嚢鼻腔吻合術に関しては他院様へ紹介させて頂いております。
(角膜移植って、あまり数が多い手術ではありません。上記の千葉の病院が日本で一番手術件数が多いようなのですが、それでも年に300件とか。白内障とはわけが違います。一般のクリニックで安定した成績を残すほど件数がないのですよね。そのうちフェムトセカンドレーザ?による手術や、人工角膜、再生角膜などの開発が進み、一般的に安全に行われるようになったら、当院でも対応していきたいと。)
角膜移植も、全てを交換する全層移植から、最近は問題の場所だけを移植する部分移植(パーツ移植)など進歩があります。今日は時間もないですし、角膜移植に関しては、もっと書きたい内容が沢山ありますので、別の機会により詳しいブログを書きたいと思います。

点眼薬・眼軟膏
濁りを取ったり、視力を回復するわけではありませんが、眼表面のキズや痛みの問題に対しては、点眼薬や眼軟膏を処方し対応します。

その他
PTKと角膜移植は、現在の角膜ジストロフィーの主な治療法で、濁りを取り除く事が出来ます。ただし、再発しにくいもの・しやすいものがありますが、基本的には遺伝子の異常などが解決するわけではありませんので、一度キレイになっても、最終的には再発しうる治療法です。
学会などで耳にする限りでは、特殊な点滴薬と光線の治療で濁りを溶かし出すような治療や、遺伝子治療などで、蓄積物が溜まらなくするような治療法が、動物実験などでは行われているようです。
将来、より安全で、よりよい治療法が開発されることを祈ります。

急いで書いたので、誤字脱字あったらすみません。